《6》 逆襲の唯

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《6》 逆襲の唯

「ふーん、そうなんだ。それはわたしの考えと一致してるよ。個人が頑張ったところで、確かに運命は覆らないね。でも、それはわたしの知ってる情報と違うんだよねえ」  言って唯は、最初に告白してきた男子の顔を指さした。 「(むら)(まつ)くん。佐咲くんはあなたに何て言葉でお願いしたの?」  すると村松と呼ばれた男子は、サッと敬礼の姿勢をとった。 「はっ! 唯さんのことが好きだから、協力してほしいと言われました!」  その言葉に、佐咲がぎょっとする。構わず唯は、二番目に告白してきた後輩クンの顔を指さす。 「(いま)()くんは? 佐咲くんに何をお願いされたの?」  村松同様に敬礼の姿勢をとった今田は、軍人を真似た口調で答えた。 「はっ! 唯先輩のことが好きだから、協力しろと命じられました!」  佐咲の美しい顔が、明らかな動揺で引き()った──まさかこいつら、全員グルか!? 支配していたはずだろう。俺はこいつらに騙されていたのか!?──彼の心に強烈な疑心が立ち上がった。  そこで演劇部の脚本担当・(もり)(さき)がふふんと鼻を鳴らし、眼鏡を光らせた。 「佐咲は馬鹿だからな。俺様なのはどうでもいいが、(まこと)に俺様であるならば、配下を完全に掌握せねば逆襲を受ける。村松も今田も、その機会を窺っていたんだ。そこにきて近沢から依頼を受けた。佐咲の本音を聞き出し、従っているふりをして、偉そうな性根を叩き直す作戦だ。佐咲の目論見がバレてしまえば、もう俺様はできないだろう。オレが筋書きを考えたんだ。佐咲は単なるピエロに過ぎない。オレも他の二人と同様、偉そうなおまえが気に入らなかったし、このホンにリアリティがあるかどうかも確かめてみたかった」  うっく、と息が詰まった佐咲は、 「ああ、もうっ!」  と一声発し、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜた。 「おまえら、ただで済むと思うなよ! 俺の計画をぶっ壊しやがって! 徹底的に(いじ)め抜いてやるからな! 覚悟しろ馬鹿野郎どもっ!」  そう吐き捨て、この場を去ろうとした。それを、森崎が引き留める。 「おい佐咲、近沢の気持ちを聞かなくていいのか」  振り返った佐咲の目には、悔し涙のようなものが滲んでいた。 「聞くまでもないだろ! もう嫌われたんだからよ!」  と、言ったとき、向日葵みたいに明るく笑んだ唯の顔が見えた。ああ、こんなときでも俺はこいつを可愛いと思ってしまうのか。憎いぐらいに大好きじゃねえか、と佐咲は思った。
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