《8》 風船ガール

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《8》 風船ガール

 その後、涙ぐむ佐咲を皆で囲み、喜びを分かち合った。 「面倒くさい遠回りしたなあ」と村松が言えば、 「とっとと()っちゃえば良かったんですよ」と今田が言った。  森崎は「これで佐咲は全員に借りを作ったわけだな」とほくそ笑んでいた。  気づけば空が鈍い水色に塗り替えられている。じきに陽が暮れ、短い夜がくるだろう。  全員が束の間の静寂を感じたとき、佐咲はふとした疑問を口にした。 「ところで、どうしておまえら、唯に従ってたんだ?」  村松と今田と森崎がにんまりと目を細めた。  そしてその問いに答えたのは、他ならぬ近沢唯、彼女だった。 「みんな、わたしの生徒なんだよ。わたし、バルーンアートの先生やってるの」  だから四人で話し合う時間が作れた。恋を成就させるため。佐咲の鼻っ(つら)を叩くため。同じ(まな)()で過ごす二人が幸せになるために。  話を聞き、佐咲は力なく肩を落とした。 「でも、悪評が立っちまったじゃねーか。ああいうのはなかなか消えないぞ。どうすんだ」  すると唯は、くすっと笑った。 「浅いねえ、佐咲くんは。わたしの悪評なんてすぐに消えるんだよ。だって、これ全部森崎くんの書いたシナリオなんだから。彼のホンはね、エモリスタって小説投稿サイトで見れるんだよ。タイトルは『風船ガール』。わたしはもう読んだけど、今度さ、二人で一緒に読もうよ。素敵な作家さんの面白い作品がいっぱいあるんだ。小一時間読書するようなデートもわたしは憧れてる。でさ、それが二人の初デートになったら楽しいと思わない? そしてこれを公表すれば、悪評はたちまち消えるし、森崎くんの小説を読んでくれる人も増える。ほら、みんなハッピーでいいでしょ?」  うぅむ、と唸った佐咲は、 「けど、村松と今田には何の得もないじゃないか」  と言った。しかし唯はあっけらかんと答えた。 「大きな声じゃ言えないんだけどね、村松くんと今田くんはすでにカップルだもん。わたしに(こく)ったことは良いカモフラージュになるのよ。だから、みんなハッピーなんだ。あ、でもまだこれは他の人に言っちゃだめだよ。二人には二人のタイミングがあるんだからね」
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