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それからというもの、俺とヨルは何度もあの空き地で待ち合わせては、散歩をしながら会話を楽しんだ。しかしヨルの出生や学校名は未だに教えてくれず、また何故いつも浴衣姿なのか聞く度に「内緒」と言い張る。
「しつこい男は嫌われるよ」
「わ、わかったよ、もう聞かないから」
その後は今を楽しむべくショッピングモールでヨルの服を選んだり、遊園地やカラオケ、温泉旅行などにも行った。ヨルは生まれて初めて体験したようにはしゃぎ回り、俺も彼女の楽しむ姿に綻んだ。
一年、また一年と時はどんどん過ぎていった。
そして、いつしかあの夜の空き地で見た『ヨルガオ』の事は、もうすっかり記憶から忘れ去ってしまった。
―――現在―――
「―――っていう事があったんだよ。いやあ、懐かしいなあ。ヨルが聞いてくるまで忘れてた。ありがとう、思い出させてくれて。それにしても本当に綺麗な花だったなあ。正直花なんて興味なかったのに、あのヨルガオに出会ったおかげで大分印象が変わった。けどなんで今まで忘れてたんだろう。あんなに印象深い花、絶対記憶に残るはずなのに。ヨルにも見せたかったなあ。ホントに美しいって言葉が似合うほど綺麗な花でさ。嘘じゃないから、本当に眩しいくらい光輝いてて綺麗なんだよ。まだ咲いてるかなあ、もうあれから二十年か………。まだ咲いててほしいなあ」
赤裸々に語る俺に、ヨルは笑顔を見せながらこう言った。
「ありがとう」
了
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