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「怒ってねぇよ。ほら、歩道橋での待ち合わせの事だろ」
図星だったらしい。
ユウは「本当に?」と不安そうな表情を浮かべて、あの頃の真実を教えてくれた。
あの時、ユウはクラスの女子――「ユウが歩道橋で待っててって言ってたよ」と言った女子たちに嫌がらせを受けていたのだという事。
実際にそんな事を言った事実は無く、その子はタケアキが好きで、幼馴染の私との仲を悪くしたいと思ってたみたい、と苦笑した。
「てっきり一緒に帰った男の先輩との仲を見せびらかすためかと思ったじゃん」と冗談めかして言った俺を「そんなわけないでしょ」と、呆れたように睨んだ。
懐かしいな……。
ユウのその表情に、胸の深い所をぎゅっと掴まれているような感覚を覚えて、咄嗟に俯いた。
俺は今、どんな表情をしているのだろう。
あれは部活で使うラケットを一緒に店に見に行って貰ったの、とグラスの水を飲み、ひとつ息を吐いた。
「髪、めっちゃ伸びたじゃん。幼稚園以来じゃね?」
肩までの黒髪を照れくさそうに手櫛で抑えながら、ユウは「そうだね」と笑う。
「女子っぽくするのが恥ずかしくて。本当は可愛いものが好きだし、中学くらいから髪も伸ばしたいって思ってたんだよ。でも、そういうの今更って言うか……好きな人の話とかも、私は無縁です、興味無いですって感じでかっこつけてたんだよね」
ユウは「馬鹿だよねぇ」と頬杖をついて、グラスを左右に傾けて氷を転がす。
「もっと正直に生きていれば良かったって思うよ。もう、どうしようも無いんだけどね」
悲しそうに笑うユウに、俺は何の言葉も返せなかった。
俺も。俺だって。もっと素直に生きていれば。
膝の上で握った拳の爪が手のひらに食い込んで、跡を残す。
俺が小学生の頃と変わらず接し続けた理由と、ユウが俺に冷たくなった理由は、もしかしたら同じなのかもしれない。
そう思うと、皮膚が白くなるほど握りしめていた拳から、ふっと力が緩んだ。
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