あの日の線香花火

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「うわっと。くそ、何だってんだよ」 天井から降って来た雫が蝋燭の火をかすめて、足元の水溜りに波紋を作る。 それにしても。 壁に右手を付き、蝋燭の火を掲げてみる。暗闇に浮かび上がるのは、先の見えない真っ直ぐの無機質な灰色の道だ。 固くて、冷たいコンクリートの壁に触れたまま歩を進める。   目を覚まし、蝋燭と一緒に置かれていたカード。 深い青色の手のひらサイズのカードの表には、満月を背にした観覧車。 そのてっぺんから地上へと続く、銀色の粒子で出来たような階段が描かれていた。 「お会いしたいという方」の予想は大体ついている。勿論、俺も同じだ。 眉間に刻んだ皺に、更に力がこもる。 左の鼻翼がひくついて「ふん」と、思い浮かんだユウの顔をあしらった。   ここ最近の――いや、去年だ。中一の冬だったか。あの頃からユウの態度は気に食わない。 俺が何をしたんだ。 話しかけても無視。 下足室で待っていた俺に気付いてるくせに、まるで見えていないかのように横切って先に帰りやがる。 隣の家で、部屋も窓から行き来できる距離にいると言うのに、鍵も開けてくれなくなった。赤ちゃんの頃から兄妹も同然に育った俺とユウ。 「ユウが話したいことがあるから、いつもの歩道橋で待っててって言ってたよ」   ユウのクラスの女子からそう言われて、いつもの歩道橋で待っていたのに、結局来なかった。 それどころか、俺がいる歩道橋の手前の角を曲がって違う道から帰ったのだ。 しかも、ユウの部活の男の先輩と一緒に。   今日こそ絶対ひとこと言ってやる。 細長く暗闇に向かって伸びるこの道は、どこに繋がっているのだろう。 時折、ぴちょん、ぴちょんと水滴の音が静かに響くだけの世界に、俺の足音が混じる。
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