あの日の線香花火

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ふと、つま先に何かが当たった。 それは柔らかくて弾力があって。 一歩分、ころんと転がった。 「なんだこれ。ぬいぐるみ?」   犬?いや違う、オオカミか。 目つきが鋭く、灰色の毛がツンツンと立っている。 子供受けが良いようにか、舌を出して笑ったような口元は犬みたいだ。 「そう言えば、これに似たようなのをユウが欲しいって言ってたな」   小学生の低学年の頃だ。 近所の雑貨屋でよく似たものを見付けたユウが、やたらと見ていたのを覚えている。 確かその翌年のホワイトデーで俺が小遣い貯めてプレゼントしたんだ。 「ま、覚えてるのなんて俺だけだろうけど」   壁際に腰の高さほどの台がある。ここから落ちたのだろう。 オオカミのぬいぐるみを放り投げ、台の上で跳ねて床に転がったのを横目に、再び歩き始めた。   イライラ混じりに吐いたため息は、冷たく暗い通路に霧散して消えた。
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