あの日の線香花火

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あっというまにベタな形の紙ひこうきを折ったユウは立ち上がって、「ほら、早く立つ」と俺に手を差し出す。   俺のは先端部分を少し折り返した紙ひこうきだ。 ユウはそれを見て「そんなの邪道だね」と笑う。 結局は普通のが一番飛ぶんだから、と胸を張ってみせた。 その胸が少し膨らんで見えて、そっと顔を逸らしたのを、ユウは多分気付いていない。 完成した紙ひこうきを手に二人丘の上に並ぶ。 六年生になってもユウより背が低い。その差は五センチ。 たったこの五センチでも、ユウが背筋を伸ばして、少しヒールのある靴を履いたら一気に十センチ近くなる。 俺はそれが嫌で、一緒に歩く時はわざと背中を丸めて歩く。 そうしていれば、背中を丸めているから小さいんだと誤魔化せる気がしたから。   だから今も、俺はユウの隣でだらしなく猫背を作って立ち、紙ひこうきを構える。 「負けたら明日のジュースおごりね」 「余裕だし。ついでにおまけのポテチも頼むわ。じゃ、せーのっ」 幼稚園児でも作れそうなベタなユウの紙ひこうき。 ユウが邪道だと笑った俺の紙ひこうき。 俺たちの背中側から駆けぬけた風が、紙ひこうきを乗せて青空に運んでいく。 空へ――。 薄水色の、透明度の高い澄んだ空へと、どこまでも、どこまでも。 夏ももうすぐ終わる。 乾いた草木の匂いを抱いた風に乗って、三匹の赤トンボもまた、俺たちの周りを気持ちよさそうに飛んでいた。
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