あの日の線香花火

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「またかよ」   弱弱しく震える声が、きんと張りつめた冷たい空間に反響して消える。 道を進んだ先に見つけたのは写真だ。 まだ低学年くらいの、あどけない表情の子供がふたり。 パジャマ姿の俺とユウは、しゃがんだ丸い背中をこちらに向けている。 無邪気に笑う俺たちの手元では、線香花火が繊細な光を弾けさせていた。 「これ……」 ここにある筈の無いものだ。 母さんが撮ったこの写真は、こっそり作っているアルバムに挟んで、俺の机の引き出しに仕舞ってあるのだから。   オオカミのぬいぐるみに、紙ひこうき。そして、この写真――。 俺は踵を返して駆け出していた。 走った勢いで消えてしまった蝋燭はその場に投げ捨て、今まで歩いてきた道を走り抜ける。 びしゃり、と跳ねた水が靴を濡らしても、天井から落ちて来た水滴が顔を伝っても、気にせず走った。 その水滴に混じって、また頬を一筋の涙が伝っていた事にも、俺は気付かないまま。 床に投げつけた丸まった紙ひこうきを広げて、皺の寄ったまま元の形に戻す。 力任せに握り潰したせいで、紙はもうぐったりと力無く、翼もよれよれだ。 写真と紙ひこうき二つを手に、オオカミのぬいぐるみも抱きかかえ、写真を見付けた所まで戻る事にした。 道が真っ直ぐなお陰で助かった。 蝋燭の火も無くなった今、視界はもう真っ暗だ。 だけどどういうわけか、紙ひこうきもぬいぐるみも暗闇の中で薄っすらと光っていた。 写真もまた、俺の手の中でぼうっと柔らかな蛍のような光を纏っている。
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