あの日の線香花火

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「手紙?」 ユウとの写真が置かれていた台に、今度は白い封筒がある。 さっきは無かったはずだ。封筒は表にも裏にも何も書かれていない。 封として貼られていた赤トンボのシールをそっと剥がした。 封筒に入っていた一枚の手紙を恐る恐る開いて―― 俺の中で、心臓が止まった。 いや、正確に言えば、そんなのとっくに止まっていた事に今更気が付いた。   胸を上下させ、呼吸を整える。 そんなの、全て俺の妄想でしかないのだが。 手紙を封筒に戻し、前を見据える。 長方形の扉が俺の前に静かに佇んでいた。 触ってみると木で出来ているようだが、綺麗に磨き上げられていて手触りは滑らかだ。 扉の向こうに、あなたとお会いしたいと仰る方がお待ちです。 ここは、たった一度だけ訪れることができる場所。 短い時間ではありますが、大切なひとときをお過ごし下さい。                星空レストラン 深い青色の紙に満月を背にした観覧車。そのてっぺんから地上へと続く、銀色の粒子で出来たような階段。 目が覚めた時に置かれていたカードと同じデザインだ。 ごくり、と唾を飲み、真鍮のドアノブをそっと右に回した。
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