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だからこそ、どさくさに紛れてここぞとばかり颯斗は、その驚いて少しばかり開いた唇にキスをする。
もちろんディープなやつじゃなくて。
触れるような、翔琉が今しがた額にしてくれた、軽いくちづけだ。
「……勃った」
だというのに、翔琉はそんなことを口にした。
「え?!」
戸惑いながらも思わず颯斗は、視線を翔琉の下腹へ移す。
たしかにそこはすでに臨戦態勢に入っていた。
「ちょっ、今のキス、どこにもエロい要素入ってませんでしたけど!」
「颯斗がそこにいるだけで俺は万年発情すると、そう出逢った頃からいつも言ってるだろ? それだけではなく颯斗は今、俺が主役だと言った。つまりそれは……」
「いや、いや、いや、だとしても、ここを出るまではガマンしてください! それにあなたの本当の誕生日は明日です」
「でも、もうこんなにも勃ってしまったら同じ男として辛さは分かるだろう? 誕生日プレゼントだと思って、今すぐ俺に颯斗自身を寄越してほしい」
「辛さ分かりますけど、でも、ここじゃなくてせめて翔琉の家で!」
着ていたブルゾンを脱ぎながら叫んだ颯斗は、翔琉の下腹を隠すように渡して、エンジンをかける。
本当はもうこれ以上運転をしたくはなかったが、車のなかでアレコレ始まるよりはいい。
というか、どうせだったらたっぷり愛しあいたいので、家に帰って翔琉の香りがするベッドで抱き合いたい。
そんな本音、さすがに恥ずかしすぎて口には出せないけれど。
結局その後、大急ぎで颯斗の運転で翔琉の家へ帰宅すると、バースデーイブのためにバイト先から調達してきたオードブルとシャンパン、ケーキを無視し、まずは玄関で愛し合い、そこからサニタリールーム、バスルーム、またサニタリールームを経て、ようやく東の空が明るんだ頃にベッドルームへ到着したのである。
そして用意したお祝いの食事に手をつけたのは、十五日が終わろうとした頃。ベッドルームで二人裸のまま、翔琉が颯斗を背後から抱きしめる形で食べさせあいながら、いつになく爛れた幸せな一日を過ごしたのだった。
END
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