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「……母さま、翔琉の腕に女子アナの大きな胸があたってるのはどういうことでしょうか? 人妻がいるって分かっていながら、アレ、わざとやっていますよね。そして翔琉もそれを黙認している!」
生放送だからこそできる女子アナの過剰なるスキンシップに、二卵性双生児の弟のほうである颯空がめざとく指摘した。
さきほどまでリビングにはいなかったはずなのに、いつの間にか颯斗の隣へ陣取っている。
将来は父親である翔琉と同じ、アルファに覚醒するだろう。
面差しも翔琉そっくりなのできっと間違いない。
つい最近十歳になったばかりだというのに、颯空は頼りがいのあるしっかりものだ。おっとりとした兄の碧翔とは、真逆の気質である。
翔琉が留守の際は一家の主のように、颯斗を守る気概が──実際にはできないことばりなのだが──早くもあるようだ。
だからこそ、この小さなナイトが愛おしい。
もちろん、ほかの子どもたちの存在も同じだ。
「ねえ、母様聞いてますか?」
詰めよるように、颯空が距離を縮めた。
はっとした先に、綺麗なグレーが心配そうに揺らめいている。
虹彩が翔琉と同じ色。
愛する番の顔を思い浮かべ、やっぱり翔琉のことが好きすぎるなあと苦笑する。
「母様?」
ふたたび問われて、はっとした。
「ごめん……聞いているよ。お父さんはいい男だから本当にモテるよね」
颯斗の返答に、颯空は苦々しそうな表情を浮かべた。
父親の遺伝子を強く引く小さなナイトのファーストも、颯斗であるらしい。
血は争えないなあ、と微笑ましく思う。
「母様は人が良すぎるんです。仕事とはいえ、あのような下卑た絡みを公共の電波で許すなんてありえません」
「まあ、でもそれがお父さんのお仕事だから仕方がないよねえ」
鼻息荒く訴える颯空をたしなめるように、穏やかな口調で言った。
「仕方がないって言いますけど、陰で本当に誘惑されていたらどうするんですか? オメガと違って、アルファは番がいてもフリーのオメガのフェロモンに反応してしまうんですよ?」
力説する颯空を、膝の上の琉愛も興味津々に聞いている。
ちなみに颯空はそういう翔琉が赦せず、いつの間にか「父様」呼びから「アイツ」呼びへと変えていた。
早くも反抗期に入ったのかな、と颯斗は思っている。
だけど、父親のことを「アイツ」呼ばわりなんて絶対にダメだ。
いけないことなので、すぐその場で颯空に注意する。
「こら、颯空くん。お父さんのことを『アイツ』呼ばわりはダメだよね」
「はあ? 母様のことをやきもきさせるような最低な男なんだから、それで十分ですよ」
心底不機嫌そうに颯空が言い捨てる。
するとどこからともなく碧翔がやって来て、リモコンを手に取ると容赦なくテレビの電源を消した。
「あ!」
二人は同時に声を上げる。
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