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「嫌なら見なければいいんだよ」
はっきり言い切った碧翔は、颯斗の膝に乗った琉愛を抱き上げると、手入れの行き届いた艶髪を撫でた。
「パパのお仕事は俳優さんだし、ほかの人たちと色々匂わせるのも人気商売だからこそだし」
「……ねえ碧翔くん、本当に十歳、なの?」
翔琉のことを「パパ」と呼ぶ言葉遣いこそ年相応に思えるが、まるで十歳とは思えない客観的な発言に吃驚する。
いったい誰を見て育ったのだろうか。
我が子ながら驚きが隠せない。
「十歳もなにも、僕は颯斗が嫌な気持ちになってほしくないと思っただけだよ」
なんてことないように声変わりもまだの、幼さい声で碧翔は言ってのける。
「生まれたときからパパの、颯斗が好きー! っていう思いがいっぱい伝わって来るし……」
言葉途中で碧翔が突然、恥ずかしそうに言葉を言い淀む。
「あー……」
どうやら颯空にも思い当たる節があるようだ。うんうんと頷きはじめる。
双子故のシンクロだろうか。
颯斗にはそれがなんだか分からなくて、怪訝そうに二人の顔を見比べる。
その間も、二人は気まずそうにアイコンタクトを取っていた。
「二人とも、あー、ってどういうこと?」
理由が思いつかなくて、颯斗は問うてしまう。
その時だった。
マンションのエントランスから、わが家を呼ぶインタフォーンが鳴った。
セキュリティが厳しいタワーマンションの最上階に、龍ヶ崎翔琉の一家が住んでいることは限られたものしか知らない。
しかもその者たちが訪れるときは大抵、アポを取ってから出向く。
だからこそ、不意うちのような来客に困惑してしまう。
「誰だろう。今日宅急便も、来客の予定もないけど」
とりあえずリビングに備えつけられているモニターから、エントランスの様子を窺う。
「え?」
「母様、どうしたんですか?」
颯斗の反応に素早く駆けつけたのは、やはり颯空だった。
『突然すみません。〇〇テレビ、二十四時間テ〇ビの【会いたい】という企画で、』
映った顔は先ほどの巨乳の女子アナ──ではなく、アナウンサー好感度ランキング一位の常連男性だった。
『俺だ』
アナウンサーの視界を塞ぐように、翔琉がモニターいっぱいに映し出される。
今しがた、ソファのうえでまさにその番組に出演する翔琉を見ていたはずだったが……。
状況が呑みこめず、ひどく颯斗は困惑した。
「えっと……」
背後では父の予期せぬ帰還に、歓喜の声があがる。
「わ! 父様!」
「え? パパ?」
パパが大好きな琉愛にいたっては、目をきらめかせモニターへ近づくよう全身を使って碧翔へ指示する始末だ。
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