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「悩みや不安は、いくつになっても尽きないものだな」
苦笑する翔琉は、めずらしく失敗した子どものような表情をしていた。
「職業柄、あまりそういったものに振りまわされないと思ってきたが、颯斗のことになると全然ダメになる。コントロールできない」
「そんなことないです。俺からしたら手に届かない、憧れの人です」
「俺のことを盛りすぎじゃないか」
前髪をかきあげながら翔琉が自嘲する。
「この頃、颯斗の前では恰好悪いところばかり見せてる気がして……なんだか悔しい」
それこそ翔琉にそう思わせている颯斗の方が悔しい。
「そんなことないです。出逢ってからずっと、俺はあなたの背中を見てきたんですから」
いつか翔琉と対等の関係になれたらと思っていたが、十年経っても追いつかない。
出逢った頃の翔琉の年齢をとうに過ぎたが、まだあの頃の彼のような包容力は身についていないような気がする。
結局は、いまの自分にできることでしか翔琉へ対応できなくて。
目の前の、へ文字を描いた薄い唇にすっと自身の唇を重ねる。
それは、ほんの僅かな接触だった。
しかしそれは颯斗からすることに意味があり、今のふたりにとっては確実に必要な行為だと思った。
案の定、グレーの瞳が大きくわななく。
「俺だって一緒です。むしろ、いつになっても翔琉のようないい男にはなれないどころか、少しも近づけていません。それに毎日逢いたくて……イチャイチャしたくて、はしたない男なんです」
途中溜めた言葉の後は、二人きりだというのに妙な恥ずかしさを覚え、声を潜めて喋る。
するとグレーの瞳がたちまちギラリと濃く光った。
どきっとしたのと同時に、やはり翔琉はこうでなくちゃと思う。
「奇遇だな。俺も好きな相手限定で、毎日顔を見たいし、はしたないことをしたいし、なんなら足腰立たないほど毎日やりたいし?」
おどけた口調で話す翔琉はさすがだ。
さすがハリウッドの第一線で活躍している世界的な俳優だけある。メンタルの切り替えが早いどころか、またここでも颯斗を十分気遣っているのがわかる。
言葉の内容は別として。
「今からでも、イチャイチャは……できるなあ?」
滔々と告げた翔琉が同意を求めるように、にやり笑って颯斗を見つめた。
ずるい男だ。
年の功というか、惚れた弱みというか、こんなふうに畳みこまれたら断れない。
しかも「イチャイチャ」に合わせて、ちゃっかり颯斗の下腹部を手で弄んでいる。
こんなのは反則だ。
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