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ハッピーバレンタイン&バースデー!!
「はい、カット!」
監督の鋭く低い声の合図があって、助監督の「お疲れさまでした」という安堵の声がスタジオいっぱいに響く。
「龍ヶ崎さん、お疲れさまでした」
事前に打ち合わせたお陰で、撮影終了とともにすぐさま翔琉のもとへマネージャーが駆け寄ってくる。
周囲との防波堤の役目を立派に果たしてくれるマネージャーは、翔琉のビジネスシーンにおいてなくてはならない存在だ。
「龍ヶ崎さん、コートと荷物はこちらです」
無意識に早歩きをする翔琉に、遅れをとらないようマネージャーも必死で後を着いてくる。
その手には楽屋においてあった翔琉の私物がすべて準備されており、マネージャーが敏腕であることを如実に示していた。
手渡しされたサングラスを素早く装着し、誰からも声を掛けられないようにバリアを張る。
今日みたいなイベントごとがある日は、そのバリアを空気も読まず突破してこようとする輩も多いので、スムーズにこの場から離れるためには必須の対応だった。
なにせ今日は、二月十四日。
バレンタインだ。
と、同時に最愛の人の誕生日なのである。
それだけでも大事件だというのに、朝からお祝いをしたくて荒ぶった翔琉を──きっとなだめすかしたのかもしれないが──仕事から帰宅したら自身の誕生日を一緒にお祝いしてほしいのだと、つき合ってからはじめて颯斗自身から、お祝いする権利を与えられたのだ。
一刻も早く、ノーミスで撮影を終わらせて帰宅せねばならない。
そんな指名に燃えて、翔琉は執念で予定よりだいぶ早く撮影を巻いて終わらせたのである。
スタジオと地下駐車場の通用口まで来ると、マネージャーは慇懃に翔琉へ頭を下げた。
「龍ヶ崎さん、ではまた明後日の夕方にお迎えにあがりますので」
「ああ、わかった。ありがとう」
翔琉は軽く手を上げると、自身が今朝停めた入口すぐのゲレンデまで迷いなく歩いていく。
予定時刻よりも早く仕事が終わったので、颯斗のバイト先へ迎えにいくことにした。
今夜は、颯斗の誕生日を水入らずで水とガラスとアートの宿として有名な熱海のオーシャンビューの宿で一泊するのだ。
そして翌日は宿でゆっくりと過ごしたあとで、都内近くのテーマ―パークへ入園し、そのまま園内にあるホテルの、パークグランドビューのバルコニールームのあるスィートルームへ泊まるのだ。
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