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つき合って四年。
こんなふうに学生みたいなデートプランはどうなのか、と疑問が湧かなかったわけでもなかったが、そもそも颯斗はまだ大学生だ。
卒業旅行へは、近場へ一泊しただけ。
ほかの学生たちが卒業旅行で長期海外旅行など行っている間、颯斗は少しでも稼ぎたいのだと、いまだにバイトへ明け暮れている。
幸か不幸か、その行為は翔琉自身としては見知らぬ他人に「高遠颯斗」を長時間独占されずに済むので、非常にありがたいことだが、それでも貴重な二十代前半をバイトで終わるのも物悲しいものがあるだろう。
だからこそ、代わりに自分が颯斗へたくさんいい思い出を作ってやりたいのだ。
というのは建前で、実際には翔琉自身が颯斗との甘い思い出をたくさん作りたいだけである。
カツ、カツと翔琉の革靴の音が駐車場に響く。
一番乗りでスタジオから出てきたので、あたりはなんの気配もない。
そうだ。
今からスタジオを出てバイト先へ迎えにいくことを、メッセージで颯斗に一報入れておこうか。
自身のコートのポケットを探り、そこから携帯電話を取り出す。
そうして、画面に触れようとしたところで、自身が乗り入れてきたゲレンデの前へ到着した。
「……ん?」
ふと携帯電話越しに黒い人影をそこに認めた。
セキュリティが厳重なスタジオだ。
部外者が簡単には入って来られないはずだし、先ほど撮影が終わったドラマ関係者であるはずもない。
一番先に翔琉がスタジオをあとにしたのだから。
少しだけ警戒して近づくと、向こうもその足音に気づいたらしい。
ふっと上げた顔に、翔琉は瞠目した。
「──お仕事、お疲れ様です」
呆然と翔琉はその場へ立ち尽くす。
「え、颯斗……どうしてここへ?」
たしかまだバイトだったはずである。
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