3月15日は、龍ヶ崎さんのお誕生日。

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3月15日は、龍ヶ崎さんのお誕生日。

高遠颯斗はドキドキしていた。 生まれて初めて、高級外車のハンドルを握っているからだ。 もちろん車は颯斗――が購入したものではなく、翔琉が愛用しているゲレンデである。 ぶつけたり、掠ったりしたら、いったい修理にいくらかかるんだろう……。 考えたくもないほどの恐怖に見舞われながらも颯斗は、初心者マークが取れたばかりのほぼペーパーに近い慎重な運転で、恐る恐る欅坂を走らせる。 どうして颯斗がこんなことをしているのかというと、明日、三月十五日は翔琉の三十二歳の誕生日だからだ。 事前になにがほしいか訊ねたら、「颯斗と二人きりの時間がほしい」と言ったので、なぜかこういうことになってしまった。 都内の交通事情は非常に難しいので、運転自体に馴れない颯斗は、ひたすらナビの教えに耳を傾け走らせる。 念のため、翔琉の家からスタジオまでの道のりを口頭での説明も受けていたが、実際ハンドルを握ると、すっかり頭から消え去ってしまう。 翔琉のマンションからほどなくしての距離のはずが、何倍もかかったような体感を覚えた瞬間、ようやく指定されたスタジオが――周囲に若い女性ばかりが集まっているのでおそらくあの場所で間違いないだろう――が、見えてきた。 看板に「駐車場」と書かれた文字の下に向いている矢印に沿って車を徐行すると、その若い女性たちがみな一様に綺麗な色の包み紙や高級ブランドのショッピング袋を手にしているのがフロントガラスから見えた。 世に出ている翔琉の誕生日が今日となっているため、おそらくプレゼントを渡しに来たのだろう。 直接渡せる可能性はゼロに等しいのに、こうしてチャンスを狙ってやってくるファンたちの光景を目にするたび、颯斗の翔琉への想いは果たしてホンモノなのだろうかと問うてしまう。 だって翔琉の車を運転するくらいで、怖気づいてしまうのだから。
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