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やがて屈強なガードマンが脇に立つ駐車場へとたどり着く。
一旦、ブレーキを踏んで停止すると運転席の窓を開け、翔琉から渡されていたパスの入ったICホルダーをガードマンへ見せる。
「どうぞ」とガードマンが声をかけるのと同時に、目の前のバーが上がった。
いつも翔琉が定位置としている、スタジオに直結するエレベーターにほど近い駐車スペースに、バックモニターで確認しながらやっとの思いで駐車すると、どこからともなくふぅとため息が出る。
なんとか、車をぶつけずに到着できた。
エンジンを停止し安堵していると、運転席の窓ガラスがコンコンとノックされる。
ドキッとした颯斗はすぐさま音のするほうへ顔を向けると、サングラスをかけた翔琉がそこへ立っていた。
どうやら時間通りに仕事は終わったらしい。
「あっ、いま、開けます!」
慌ててドアを開けると、ギュッと抱きしめられる。
シャワーでも浴びたのだろうか、ソープのいい香りに交じって、翔琉のムスクの香りもふわりと漂う。
「ここまでお疲れ様。運転、大丈夫だったか?」
心底ねぎらう言葉と同時に翔琉は、颯斗の額へキスをした。
周囲にひと気を感じなかったが、それでも外には翔琉のファンがたくさん押しかけていることに焦った颯斗は慌てて首を引こうとしたが、思うところがあってそのキスを享受する。
「めずらしいな。外でキスしても颯斗が逃げないなんて」
くしゃっと柔らかい笑みを浮かべた翔琉は、いくつになっても、出逢った頃以上にカッコイイを更新し続けるいい男だ。
出逢った頃はずっと、颯斗にはもったいない相手だと思っていた。
しかしいつしか、この人の隣に並びたい、誇れるような人物になりたい。恋心だけでなく、生きていく上での指標にもなっていた翔琉は、この頃、恋人というより人生を共に歩む「伴侶」という言葉がまさに適切なパートナーなのではないか。
そう思うようになってきていた。
おこがましいけれど。
「……だって、今日明日は翔琉が主役ですから」
恥ずかしがりながらも思っていることを伝えた颯斗に、翔琉は驚いたような顔をして見せた。
いや、あれは「して見せた」ではなく、本気で驚いていた表情だった。
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