居酒屋ピエロ

3/7
前へ
/77ページ
次へ
僕が予想した通り、ラーメンのその味は至福の一言であった。 体液まで絞り取ったのかと思える程、貝の旨味が滲み出たスープは、鼻に抜ける香りがたまらなく、舌の上で最上のダンスを繰り広げてくれる。 そして、それに絡まる麺もスープに心地よく絡まり、僕と野乃はしばらく無言になりながら目の前のラーメンを堪能した。 「ところで……」 ラーメンを食べきり、ヘアゴムを外した野乃は、頬杖をつきながら切り出した。 「LINEで言ってた、彼女と別れたって話は結局どうなった?」 「悪い、夢のインパクトが強烈過ぎて忘れてたよ」 「もしかしたら、旦那も飲み会キャンセルして帰ってくるかもだし、出来れば手短に頼むね。 ラーメン奢ってくれるお礼として、きっちり愚痴は聞いてあげるから」 「分かってるよ」 僕は再び苦笑すると、失恋までに至る経緯を野乃に話す。 その内容は、世間でよくある性格の不一致からくる不和だ。 そして、僕のその下らない失恋話を野乃は微笑混じりに聞いていた。 ココだけの話、僕は野乃に対して恋心を抱いていた。 今日、「失恋話」を名目に野乃を食事に誘ったのも、少しでも野乃と会話をしたかったからだ。 しかし、中学時代から抱いている僕の野乃への恋心は、4年前に彼女が他の男と結婚する事で、成就する事が出来なくなる。 今でも後悔している。 もし、僕があの時勇気を振り絞って行動していれば、僕と野乃は交際し、あわよくば結婚に至ったのではないかと。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加