居酒屋ピエロ

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僕はよほど未練たらしい性格らしく、仕事帰りの立ち飲み屋に入って、店主に中学時代の野乃との交際のチャンスを逃した愚痴を洩らす、という行為を繰り返し行っていた。 すると、僕のその話に興味を持った、隣の泥酔一歩手前のオッサンが「おぅ! おぅ!」と目を輝かせて僕の話を聞いてくれた。 結果、僕とオッサンは肩を組んで「未来予想図 Ⅱ」を歌うくらい意気投合したのだが、会計時になると僕とオッサンのその関係に亀裂が入る。 驚く事にオッサンは金を一銭も持ってきておらず、自分の飲み代を図々しくも僕に請求してきたのだ。 下らない愚痴を聞いてもらったという手前、僕は渋々オッサンの飲み代を払うと、オッサンは「この埋め合わせは絶対にするからな!」と調子良く言い、僕の前から去っていった。 僕がピエロの金平糖の夢を見たのは、その日の夜だ。 そして、何がどうなってそうなったのかは分からないが、僕の枕元には夢の通りに金平糖が置かれており、事の前後関係を考えれば確かにオッサンの埋め合わせと言えるかもだった。 「君は多分、その彼女さんの事を本気で愛して無かったんじゃないかな」 僕の失恋話を聞き終えた後、野乃が実に的確なアドバイスをしてきた。 僕は「そうだと思う」と、首肯するしかなかった。 何故なら、僕が本当に好きなのは、目の前にいる野乃であったからだ。 しかし、人妻である野乃にそれを告げる事は出來ず、僕は29歳の今に至るまで、自分にとって60%の恋や70%の恋をし、そしてその度に失恋をし、野乃に愚痴を聞いてもらっていた。 「さてと」 左手首に巻かれた腕時計で時刻を確認した野乃は、僕の斜め右に置かれている小瓶に目をやる。 「ホントに過去に戻れるかはともかく、その金平糖ちょうだい。 ラーメン食べて、ちょっと口直しに欲しくなっちゃった」 「もちろん。俺もそのつもりで持ってきたんだ」 僕は口元を曲げると、夢で手に入れたと自分でも思い込んでいる金平糖の小瓶のフタを開けた。
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