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「香那に会うのは、そろそろ終わりにした方が良いのかもしれない。
どんどん、香那はあの頃の凪沙に似てくる。賢く、意志が強く、誰よりも優しい。私は、また、何らかの形で君たちを傷つけてしまうことがとても怖いんだ。でも、少なくとも学生の間は、応援をさせて欲しい。
そして、香那は本当に好きな人と結ばれると良い。その時には約束通り、好きな人の姓を名乗りなさい。そして、誰よりも幸せになって欲しい。
だいぶ酔ってしまった。香那の買ってきてくれたお土産を、親子で過ごす間に味わいたいと思って。
こんな父親で、申し訳ない。
でも、これが嘘偽りの無い事実なんだ。」
話し終わった後、父はゆっくりと背中を椅子に預けた。
私が涙を堪えているのに気付いた父は、優しく微笑んで言った。
「内容だけじゃ無く、話し方も配慮に欠けていて済まない。つい、お母さんのことを名前で呼んでいた。離れた後も何度も思い浮かべたんだ。何をどうすれば、一緒に生きていけたのだろうかって。
一緒に生きていくことは出来なかったけれど、あの時愛していたのは間違いない。これ以上無い出会いだと信じて、二人の間に授かった命を、心待ちにしていた時間があった。香那は私とお母さんが望んで授かったんだ。
悪いのは私だ。覚悟が足りず、大切な人を傷つけたんだから。その時だけで無く、今でもずっと、長い間傷つけ続けている」
「話してくれて、ありがとう。お父さんは、家族を大切にして。それが一番幸せなことでしょう?私たちは十分幸せだから。笑いがあって、支え合って暮らしてる。悪いけど、お父さんが入る隙なんてないし」
ふっと父は笑った。
「それが、香那の素なんだな。良かった。それが知られただけでも」
以前、父の名をネットで検索したことがある。予想以上に情報が多くて驚いた。奥さんのことも、家柄や顔まで知ってしまった。母が、私と同じように父の家族を知ってしまったら、両親が親しくなることは二度とないと思った。母は、生真面目ではないけれど、筋を通す人だから。
祖父母や会社の思惑に従った方が良いと考えて、母は父の元を去ったのだと思う。たぶん、自分が辛かったからじゃない。父の愛情を疑ったわけでも無いと思う。それなら、きっと私は生まれてこなかった。
母が愛した父の幸せを、願ってしたことだ。
私の想像だけど、きっと真実とそう変わりは無いと思う。
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