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「結婚が週刊誌に載るくらいの人だから、私といることでパパ活とか、・・・隠し子とか週刊誌に書かれたら大変でしょう?今日だって、かなりいろんな包囲網を敷いて会ってくれたんでしょう?
もう、会わない。
今日、たくさんの愛情を貰ったから、もう良いの。じゃあ、私行きます。ホテルの方を呼んでください」
父は躊躇いながら携帯に触れた。
「香那。すまない。次の予定が入っているから人を呼ぶ。・・・私が余計なことを口にしたから会わないと言うなら、それは違う。気持ちが高ぶってしまったんだ。そんなことを言わないでくれ。」
「私が考えて、そうした方が良いと思ったんです。連絡はします。沢山助けて貰っているから、留学の報告も、いつか一緒に生きていきたいと思うくらい大切な人が出来たときには、その連絡もします」
そこに、ホテルマンのノックの音が聞こえた。
「ありがとうございます。辛いのに話してくれて。今でもお父さんの重荷になるくらい、意味のあることだとわかったから、私は自分を大事に生きていけます。だから、お父さんはもう自分を責めないで。お母さんは、素敵な人だから、これからまた幸せになれると思う」
「そこで待っていてくれ。今行く」
私には答えず、父がそう言ってゆっくり立ち上がった。
「凪沙に触れたのが、もう20年も昔のことだなんて、信じられないな」
「・・・私は香那ですよ?」
「わかってる。そこまで酔ってはいないよ。香那がお腹にいる時のことを、思い出した。二人分だと言って…」
父は、立ち上がっていた私の両腕を引き寄せた。
「こうしたものだった」
後頭部に大きな手が触れて、父の胸に引き寄せられた。
「娘でいてくれて、ありがとう」
その言葉を聞いて、私はそっと父の胸を押して離れた。
母なら、最後に何を言うだろう?
「…元気で、いてください」
泣きそうな顔を見せたくなかった私は、振り返らずに部屋を出た。
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