04

3/8

172人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
“答えなんか、どうでもいい。香那に会いたかった”  彼の長い腕に引き寄せられた。私は拒まなかった。この間抱き締められたのは父だった。その前はいつだろう?智也の腕の中しか知らないから、高校生の時以来か。  無駄な力が抜けていく。  どうしよう?彼のそばにいると、私は無防備になってしまう。それがなぜなのか分からない。  だから、このまま甘えるわけにはいかない気がする。  私は、そっと彼の胸から顔を離した。 “ごめんなさい。答えは出せなかった。私は私の気持ちがまだわからないの” “ゆっくりでいいよ。でも、何か変化があったんだね” “わかるの?” “わかる。香那に通ってる芯みたいなものが強くなった気がする” “芯が通るって、日本的な表現よね?きっと” “たぶんね。他の言語なら、核って言うのかな。でも、香那が変わった部分は、球じゃ無くて線のような気がするんだ。頭からつま先まで貫く線のようなもの。それを軸に、行動も考えも変わるみたいな”  あ、何だか今泣きそう。 “香那の気持ちに添えたなら、嬉しい”  私はまた、俯くしか出来なかった。今何か口にしたら、たぶん涙が溢れてしまう。  それはちょっと、避けたい。 “香那、夕食は済んだの?”  あれ?どうしたっけ?母を見送りがてら一緒にブランチを食べて、それきりだった。  自覚したら急にお腹が空いてきた。 “まだ、食べてなかった。一緒に、食べない?陳君は食べたの?”  苦笑いを浮かべて私を見下ろす彼と、目が合った。 “あ、“ちんくん”じゃない。Chen Weiだった”  また、抱き寄せられた。 “香那が僕の名前を呼んでくれるだけで嬉しい。・・・フードコートにでも行こうか?それなら、お互いに好きな物を食べられるから”  そっか、食べちゃいけない物があるんだよね。出汁でもためなんだよね。確か。二人でチャーシュー入り豚骨ラーメンなんて、絶対に食べられないわけだ。 “何考えてるの?” “何食べようかなって”  そう答えたら、寄りかかっていた厚い胸が揺れた。 “お帰り。香那。香那がそばにいるだけで、僕はもう満足だ。行こうか”  私たちは賑やかな通りへと向かった。彼に手を取られていたことも自然に受け容れて、並んで歩き出した。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

172人が本棚に入れています
本棚に追加