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“答えなんか、どうでもいい。香那に会いたかった”
彼の長い腕に引き寄せられた。私は拒まなかった。この間抱き締められたのは父だった。その前はいつだろう?智也の腕の中しか知らないから、高校生の時以来か。
無駄な力が抜けていく。
どうしよう?彼のそばにいると、私は無防備になってしまう。それがなぜなのか分からない。
だから、このまま甘えるわけにはいかない気がする。
私は、そっと彼の胸から顔を離した。
“ごめんなさい。答えは出せなかった。私は私の気持ちがまだわからないの”
“ゆっくりでいいよ。でも、何か変化があったんだね”
“わかるの?”
“わかる。香那に通ってる芯みたいなものが強くなった気がする”
“芯が通るって、日本的な表現よね?きっと”
“たぶんね。他の言語なら、核って言うのかな。でも、香那が変わった部分は、球じゃ無くて線のような気がするんだ。頭からつま先まで貫く線のようなもの。それを軸に、行動も考えも変わるみたいな”
あ、何だか今泣きそう。
“香那の気持ちに添えたなら、嬉しい”
私はまた、俯くしか出来なかった。今何か口にしたら、たぶん涙が溢れてしまう。
それはちょっと、避けたい。
“香那、夕食は済んだの?”
あれ?どうしたっけ?母を見送りがてら一緒にブランチを食べて、それきりだった。
自覚したら急にお腹が空いてきた。
“まだ、食べてなかった。一緒に、食べない?陳君は食べたの?”
苦笑いを浮かべて私を見下ろす彼と、目が合った。
“あ、“ちんくん”じゃない。Chen Weiだった”
また、抱き寄せられた。
“香那が僕の名前を呼んでくれるだけで嬉しい。・・・フードコートにでも行こうか?それなら、お互いに好きな物を食べられるから”
そっか、食べちゃいけない物があるんだよね。出汁でもためなんだよね。確か。二人でチャーシュー入り豚骨ラーメンなんて、絶対に食べられないわけだ。
“何考えてるの?”
“何食べようかなって”
そう答えたら、寄りかかっていた厚い胸が揺れた。
“お帰り。香那。香那がそばにいるだけで、僕はもう満足だ。行こうか”
私たちは賑やかな通りへと向かった。彼に手を取られていたことも自然に受け容れて、並んで歩き出した。
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