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いつも週末になると二人で出掛けた。大学の構内を散歩するとか、フードコートで食事をするとかして過ごした。文化や習慣を紹介しあったり、カナダの文化に触れたり。穏やかだけれど、豊かな時間を過ごせた。
私は1年だけの交換留学、彼は4年間しっかり法学を学んで卒業する。どちらにせよ、学びの質は高くて、課題や学外の研修など思いの他忙しい。一緒に図書館で調べたり、教えあったりすることも多かった。
会話は基本は英語で、時々フランス語。たまに日本語と中国語混じり。まさか、この留学で中国語まで身に付けられるとは思わなかった。イスラム圏やアジアなど多くの国籍の人とも彼を通して知り合いになれた。
お互いプラスになる関係。
唇に触れたのは、短期留学の帰国前夜だけ。手を繋いだのも、ハグしたのも帰国前夜と再会の日だけ。
お祈りの時間があるからか、いつも2~3時間で別れる。日が長いうちは日中会って別れ、夜に再度待ち合わせすることも何回かあった。
少しだけ不安に思って調べてみた。私が、彼に戒律を破らせるような存在なら申し訳ないから。
豚肉とお酒は駄目。一日五回のお祈り。断食の期間がある。
それから。
ふーん。男女交際の禁止。
手を繋ぐのもだめなんだ。親が決めた人と結婚。結婚したら、相手も同じ信仰をするのは絶対。
へー、これは結構大変だ。
若い人は比較的緩やかな考えで、お酒を飲む人も男女交際が派手な人もいるらしい。
それぞれが単独で神と約束するから、他の人のことはどうこう言えないそうだ。彼はどうなんだろうな。
……私と会っていて、大丈夫なのかな?
そんなことを気にし始めたのは、11月も半ば。2ヶ月ほど過ぎた頃だった。この時期の夜は長い。暗い町中に繰り出すには少し不安があって、一人で過ごす時間は、長い。
ある週末、彼に会ったとき尋ねてみた。
“あなたの信仰について、聞いて良い?“
“構わないよ”
“私とこうして会うことは問題ないの?“
彼は、目を見開いて私を見た。
私がイメージする中国人とは少し違う、西洋的な顔立ち。鼻筋は通り、目は黒目がちのくっきりとした二重だ。
“どうして、そんなこと聞くの?
あれ?どうして、だろう?
逆に、沈黙した私に彼は尋ねた。
“僕に興味を持ってくれた?”
“興味というか、心配になったの。こうして会うことが、何かあなたにとってマイナスになったら大変だなと思って”
“調べたの?僕の信仰について”
“日本では、宗教について考える機会や知る機会がほとんど無かったから。一般常識程度には知っておきたくて”
彼は、少し目を伏せて言った。
“僕のことが知りたいわけじゃないんだ?”
どうなんだろう?
“異文化を知りたい気持ちもあるし、あなたのことを知りたいのもある”
私たちは地下街のカフェで話をしていた。周囲は英語とフランス語がほとんどだけれど、様々な外見の人が大勢いてその他の言語も聞こえてくる。
“僕は最初から香那のことが好きだ。でも、僕の家族や信仰を捨てることは出来ない。だから、僕はギリギリのところで、自分の思いと信仰のバランスを取ってきたつもりだよ。香那が気にすることは何も無い。マイナスにはならないから”
“分かった。それならいいの”
“・・・もう、何も聞くことは無いの?”
“それを聞いたら、安心したから大丈夫”
“僕は大丈夫じゃない。・・・香那。おかしいと思うかもしれないけど、香那の大叔母さんに会いに行きたい。近くにいるんでしょう?その人に挨拶して、僕を認めて貰えたら、婚約者になって欲しい”
え?え?えー?
おつきあいもしていないのに、婚約?
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