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成人式の実行委員を引き受けたのは、ちょっとしたミスだった。
暇な時間があるのが嫌で、予定をどんどん入れていたから成人式の翌日が、出国の日で無くカナダでの授業開始日だということを把握していないことに気付いたのは、10月だった。成人式には出席せず、成人式の前々日にカナダに向かうことに決めた。
その時は、さすがにあまりにも無責任だと思ったから、会議の時に実行委員のみんなには事情を説明してお詫びをした。実行委員長は元中の生徒会長で、栞の彼で、私の“手下“の陽平だからよし。きっと分かってくれると思った。
出発ギリギリまで、成人式の実行委員として私が出来る精一杯のことをした。中学の時の学園祭前の忙しさによく似ていて、少しだけわくわくした。昔みたいに、栞と智也はいなかったけれど。
司会進行の原稿チェックを陽平に頼まれて、つい意地悪心が顔を出す。
「忙しいから自分でやれば?」
「忙しいのはお互い様。だから頼むよ」
「本番いない私ができることなんて、限られてるんだから」
「一度は引き受けただろ?」
「まさか、この時期の短期留学が強制参加だなんて思わなかった。不可抗力だよ」
疚しい思いがあるから、目は伏せたまま口を尖らせて言う。こんな時、いつもなら陽平に睨みを効かせるのに。
陽平は私の通う大学を受験していたから、短期留学が一年以上の長期留学の際の規定の留学のシステムだと覚えているだろう。
スケジュールを把握できなかったのは、智也の恋愛がらみの噂話を耳にして動揺したからだって、陽平に見透かされている気がする。
陽平はふんと鼻を鳴らしていたけど、私に原稿を預けて別な作業をし始めた。むしろ、騙されてくれたって感じ。
実行委員を決めるとき、相談をするという口実で地元に残っている人が集まって食事に出掛けたことがあった。その時、智也が向こうの大学でかなりモテてると、わざわざ私に言いに来る男がいた。だからなんだって言うんだろう?
「もう、とっくに別れてるから別に。智也ならもてるでしょ?」
だけど、私は誰かに誘われても、つきあってと言われても全く応じない。アプローチすら口にできずに、他の男の人のことを噂するどうしようも無い男なんて、相手にする気も無い。陽平が、私を心配そうに見つめてきたから言ってやった。
「私がフリーなのは、いい男がいないだけ。いいよ。暇だから実行委員、私がやる」
結局、同じ中学の出身者では私と陽平が実行委員を引き受けることになった。
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