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 私はどう答えたら良いのだろう? “あなたと過ごす時間は穏やかだけれど、発見に満ちてる。強がりな私が素直になれる、特別な人なのは間違いないと思う”  彼は、手を膝に戻して私の話を聞く姿勢になった。 “でもね、その気持ちの正体が何か、私にはわからないの” “どうして?”  どうしてなのかがわかったら、迷いなく過ごせるのにって私も思う。 “今まで、人を好きになったことが一度しかなかった。それがあまりにも大きすぎて、終わってしまった今でも、私の中で収まりがつかない”  なぜか、彼は微笑んだ。 “…え?” “やっと話してくれた。香那は自分のことを話さないし、僕に個人的なことを聞くこともなかったから。だから、嬉しい” “嫌じゃないの?” “嫌じゃない。寧ろ嬉しい。僕に本音を話してくれたから。今日はもう少し一緒にいたい。だめかな?” “私は構わないけど。でも…”  たぶん、彼はそろそろお祈りの時間だ。会ってからもう、三時間近く経っていたから。 “この近くに礼拝所があるんだ。少し待っていてくれると嬉しい” “私も行っていい?” “男女で別れないといけないから、近くのお店で待っていてほしい”  その時、彼の携帯が鳴った。 “10分前だ。向かっていいかな?” “うん。急ごうか”  自分の生活圏内に、礼拝所があったことすら知らなかった。きれいな建物、としか認識していなかった。近くの書店にいると伝えると、彼は頷き手を振り走っていった。同じように急いで向かう人がそのあと何人もいた。   私の知らないことばかりだ。こうして何かを知ると、世界がまた違って見えてくる。  そこで、はっとした。  彼と会って、私は世界の見方が変わった。過去の出来事も、捉え方が変わってきた。日本に戻って、両親と向き合えたのも、彼の影響があったからこそだった。  答えは出ていたのかもしれない。  気持ちが追い付かないだけで。  15分ほどして、彼が戻ってきた。 “香那!なんで店の中にいないの?風邪引くよ。寒いの苦手でしょ?”  そっと、彼の腕に手を伸ばす。私は、初めて自分から彼に触れた。寒いから手袋をしていて布越しだけど。もう日が沈む頃だから、気温はぐっと下がっている。 “今わかったの。私があなたに感じてるのも好きって気持ちなの。失うのが怖くて、認められなかった” “真的?假的?(ほんとに?嘘でしょ?)”  “真的!(ほんとだってば)”  恥ずかしいやら腹は立つやらで、目元が熱くなる。 “…っごめん、香那。疑った訳じゃない。あんまり嬉しくて。だから泣かないで”  私の目尻を彼は指で押さえた。
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