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05
穏やかに、でも忙しく日々は過ぎていく。私たちの関係は徐々に親しい人に知られ、温かく見守られた。どこに行っても、人を掻き乱すのが好きな人はいるけれど、あまり嫌な思いをすることがなかった。知らないうちに、彼に守られていたのだろうとわかる。
クリスマスに留学生寮内のパーティーがあった。参加は自由だったから、様々な宗教に対応した食事を楽しんだ後、アパートに帰る私は早めに退室することにしていた。
“日本人も、クリスマスにお祝いするんでしょ?”
“お祝いって言うのかな?宗教的な意味合いは全くなくて、美味しい物を食べて、プレゼントを贈ったり貰ったりする日だよ”
“恋人同士はどうするの?”
“一緒に過ごす人たちが多いかな”
変に気を使わせたくなくて、そんな風に伝えた。
“それなら、僕は香那と一緒に過ごしたいな”
“だって…”
“僕には他に神はいないから。異文化を体験するだけだよ。何も問題ない”
“本当に?”
“香那は一人がいい?”
私は思いきり首を振った。
“陳威と一緒がいい”
“香那は可愛すぎる”
彼が時々口にするその言葉に、なぜか胸が苦しくなる。
勝手に同い年だと思い込んでいたけれど、彼の方が年齢は二つ上だった。既に中国の大学を卒業していて、更に別な課程を学ぶために留学したのだそうだ。
鞄を持った彼と一緒に寮を出て、私のアパートに向かった。
“香那、忘れ物をしたから、一回寮に帰る。すぐに戻るから部屋で待っていて。30分もかからないと思う”
私を部屋に送り届けてすぐ、彼は帰っていった。礼拝を忘れないために携帯はとても便利だから、忘れるなんてことはない。一体何を忘れたんだろう?とりあえず、部屋をきれいに整えて彼を迎えることにした。
私たちは、食事を外で済ませることが多い。私が選ぶ食材や使う調味料が、彼に良いのかどうかまだ自信が無いから。材料を買いそろえてきた彼が、私の家で食事を作ることもある。
いずれにせよ、こうして二人で過ごすだけでも特別なことだというのは何となく理解できた。
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