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すぐに着られるように、入浴前に脱衣所で貰った包みを開けてみた。
思わず声をあげそうになった。
下着まで入っていたから。
しかも、色は白だけどデザインや素材が、なんと言うかすごくセクシー。身に付けることに意味があるのかなってくらい、レースで肌が透けるし、布の部分が少ない気がする。
そして、胸元も背中も開いた、サテン地のライラック色のワンピース。パーティードレスみたいだ。スリットがかなり深い。
ネットショッピングだったとしても、陳威ってば、どんな顔でこれを選んだんだろう?
入浴を終えて、慣れない下着やワンピースに苦労しながら着替えた。ここまでドレスアップするならと、お化粧と髪型もいつもと変えてみた。
“未来の妻“なんて。
照れちゃうじゃない。
そう言えば、彼は前も言っていた。奥さんは旦那様の前でだけ妖艶になるって。いつもより、少し赤みの強い口紅を塗って、部屋に戻った。
“・・・すごく綺麗だ”
黙ったまま私を見た後、中国語で彼は呟いた。
私は私で、部屋の様子に驚いていた。
“どうしたの?これ”
テーブルいっぱいにご馳走があり、デザートまで用意されていた。そう言えば、いつもよりも彼の荷物が多かった。お祈りに行っていただけで無く、私に知られたくない買い物もしていたのかもしれない。
“香那忘れてるでしょ?今日は香那の誕生日だよ?”
4月の半ばから約一ヶ月会えなかった。そのことに意識が集中していたし、時差のある日本の友人たちからのお祝いメッセージは、課題に追われて携帯を見る暇がなかったから確認していなかった。
カナダの時間では、今日が私の誕生日。この地で生まれたのだから、今日は特別な誕生日だと思った。
“ありがとう。陳威。わたしの誕生を祝ってくれて“
“当然だよ”
”陳威、…愛してる。”
“僕はもっと愛してる”
吹き出した私に、彼は優しく唇を重ねてくれた。
一品一品、彼は料理の名前を教えてくれた。デザートも許された食材で作ったものだと聞いて驚いた。ラズベリージャムの入ったクリームチーズケーキ風のデザート。
辛いものも羊肉も好きだから、どの料理も本当においしかった。
ドレスアップしているのも忘れるくらい、食べることに夢中になっていた私を、彼は嬉しそうに見つめていた。
確かに信仰の制約はあるけれど、工夫次第で楽しみながら生活できそうだと心から思った。
“たぶん私は、あなたの信仰も習慣も、全部受け止められる気がする。戸惑いはあるだろうけど、楽しむことだってできると思うな”
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