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 この申し出を断るのは、良心が痛む。自意識過剰をとおり越して、あまりにも冷たい。それなら、ついでに教えてあげよう。 「時々なら、かまわない。それから、”時々話し掛けていいか?”は少しきつく聞こえるの。あまり親しくない人には、“時々話し掛けていいですか?”とか“いいかな?”の方がいいよ」  彼は、目に見えて顔が赤くなった。 「ごめん。ドラマや映画を見て言葉を覚えるから、言葉遣いが少し変かもしれない」 「何それ。それで、英語と日本語とフランス語を覚えたわけ?」  思わず漏れた言葉に、彼は律儀に答えてくれた。 「最近は韓国ドラマで、韓国語の勉強を始めたんだけど。希望を出したら、トントン拍子で国費の留学の話が決まったから。今は中断してる」  トントン拍子って、一体どんなドラマを見たんだろう?私たちの世代で使う?少なくとも、日本語習いたての人は使えないよね?  警戒心は解けて、興味が先行しそうになるのをぐっと堪えた。 “1ヶ月、よろしく”    砕けすぎないように、英語に戻した。 「よろしく。君の名前は?」  彼は日本語で尋ねる。しかも“君”ってどうよ?  でも、最初からガンガン訂正しても責任取れないし。落ち込ませてもかわいそうだから、スルー。 “タテワキ カナ” “我是陳偉”  あ、本当に中国の人だった!と思った。  なかなか印象的な出会いだった。
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