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一度だけ、祖父母に会ったことがある。二人とも、憎々しげな目で私を見ていた。祖父母と会ったことは、恐怖でしかなかった。
「母親にそっくりだな」
吐き捨てるように祖父に当たる人が言った。祖母に当たる人は、私に口も訊かなかった。
「認知はさせてやる。しかし、二度と私たちの前に姿を現すな。お前の母親はとんでもない女だ」
呼ばれたから来た上に、何やら難しい言葉を聞かされて戸惑ったことを覚えている。私と祖父母が話したその部屋にすら、母は入れて貰えなかった。
父に手を引かれて部屋を出て、母の元に戻った。母は私を見て、父から私を奪うようにして抱き締めた。
「二人で、穏やかに生きてきたんです。あなたに近付くために帰国したわけでは無いんです。二度と会うつもりは無かった。できるなら・・・そっとしておいてほしかった。この子は私が守るから」
私を抱き締める母の手が震えている理由は分からないのに、私は母にぎゅっと抱き付いた。
「すまない。私が出来ることは、もうこんなことくらいしか無かった」
父は母に言った。
二人はそれ以上何も言わなかった。言えなかったのだろうか?
おそらく、二人が会ったのはその時だけ。父が家に来ることはないし、私と会うのは何かの節目くらい。
私は強くなければいけない。そうでないと、私の存在を自分で否定してしまいそうになる。
留学生寮で一人で過ごしているせいか、色々考えてしまった。ホームシックのようなものかもしれない。
欲しい物は、全部自分で手に入れる。
でも、手にいれた後はどうすればいいんだろう?それは、誰も教えてくれなかった。
壊れるまで手元に置く?
大事にして、触れずに眺める?
きっと、傷付けたり傷付いたりする前に、そっと手を離せばいいんだ。
母はそれができなかった。
だから、幸せになれなかったのかもしれない。
そっと手を離した私は、どうだろう?
ぽっかり空いた穴は未だに、空洞のままだ。
ああ、やだ!いじいじするのは。
夕食でも食べに行こう。
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