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1 女神が間違えた
私はサラ。非力ながら冒険者をやってるわ。不測の事態なんて慣れっこ、と思ってたけど、ここはどこ?この白い部屋はなんなのかしら。私はだれ?
・・落ち着いて考えないと。
時間を少しさかのぼる。
友達二人とイベントを見に来たのは間違いない。
◆
1000年前に、ここアストリアには魔王を名乗るハナコサトウが現れた。
異世界の日本産だ。
魔王ハナコ出現と同時期に、同じ日本から初代勇者イチローヒガシたち四人が女神ステアに召喚された。
勇者は、魔王をボコって魔族領に追い返したってなってる。
勇者はこの港町モージーが気に入って、聖女アスカと結婚して、アスカ伯爵家を作った。
その縁なのか、女神ステアが50年ごとに、この街に勇者を送り込んでくる。
◆◆◆
「サラ、もうすぐ始まるぞ。魔王軍をやっつけてくれる人間兵器がくるぞ」
「ひどい言い方」
「それよか、もっと急ぎましょう」
◆
「海浜公園が人だらけだけど、野外ステージの魔方陣は見えるな。現れるまで、もう少し」
「どんな人が来るかな」
「召喚者って、魔王討伐後に文化貢献とかしてるから、そっちが楽しみ」
◆
夕暮れの港町の海浜公園、100メートル先に巨大魔方陣が浮かび上がったのは間違いない。
あ、このときだ!
「サラ、何その足元、丸い光が輝いてるよ」
横にいた友人の言葉と同時に、目の前が真っ白になった。
◆
白い世界だ。
なんか、頭に輪っか付けたおばちゃんが、しゃべってる。
「日本から来た者よ。アストリアの世界に魔王が現れました。世界は危機に瀕しています」
「ん?」
「アストリアとは・・・」
「知ってますよ」
「へ?」
「だから、モージーの町に勇者が出現するんでしょう」
「なぜ知っておる、日本から喚びし者よ」
「あたし、モージーの住民ですもん」
「え?」
「へ?」
「名前は?」
「サラ」
「山村沙羅ではないの?」
「孤児院育ちの、ただのサラです」
「そ、そ、そ」
「間違ってますね・・」
「そ、そ、そなたには、拳聖の力とオリハルコンでできた手甲、防具セット、収納指輪を与えよう」
げ、早口で一気にしゃべりだした!
「人の話を・・」
「ぐ、この器では拳聖になれん。魔改造しかないな。グリグリグリグリー!」
「いた、いででで!無茶!いだい!」
「うむ、何とか収まった。うむ」
「もう何なの?ちょっとおばさん、いや、きれいなおねえさん、話をしようよ」
「ん?意外と動じないやつだの」
「そりゃ、パニくってますよ。けど死ぬわけでもないみたいだし、こんな場所ってめったなことでは来れないでしょ」
「そうだの。何というか神経が太いな、お主」
「ところで、何で1000年前に、この世界に魔王を呼んだんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。ちょうどこの世界が日本のロールプレイング「ゴブリンクエスチョン」の舞台のようでな。先に魔王、あとから勇者パーティーを召喚したのじゃ」
「ああ、機械でやるゲームでしょ。開発に成功して、3年後に売り出すとか言ってましたよ。目が飛び出るような値段見て、もう興味なくしたけど・・」
「むむ?ゲーム機とな。アストリアはそこまで発展しとるのか、なぜかの」
「えええ、お姉さんが狙ってやったじゃないんですか?」
「どういうことかの?」
「1000年前に魔王と初代勇者たちを召喚したんですよね。そして50年おきに4人の勇者パーティーを呼んだんですよね」
「そうじゃ、魔王に殺された者もおったが2、3年ほど冒険をして、私を楽しませてくれた」
「そのあとは?」
「知らぬ」
「あっちゃー」
「何か起こったのか?」
「勇者さんたちだって人間。そっからの人生の方が長いんですよ。特にモージーなんか召喚者が集まるから、日本の知識と技術を取り込んで、かなり近代化してます」
「例えば?」
「まだ魔石の高価さが問題だけど、魔道てれび、魔道らじお、魔道通信機、魔道鉄道とか、日本のものをたくさん再現してるそうです」
「予想しておらなんだ」
「女神様からしたら1000年はあっという間でも、人間は何世代も入れ替わったますよ」
「じゃあ、今回の勇者パーティーは、旅には出ぬのか」
「特に、ここ50年の進歩はすごいですもん。干し肉食べながら魔物だらけの森で野営する不潔な勇者の話は、昔話で読みましたよ。私たちも、それやるんですか?」
「ならば、魔王と相談かの?」
「え?魔王」
「うむ、魔王は逆鱗に触れねば、話が分かるやつだよ」
「それは意外でした」
「日本のゲームも色々と出ておるし、こっちのシステムも考え直すか。魔王降臨から1000年、何度も勇者を送り続けたら魔王もキレてのう」
「何か言ってます?」
「今度もワンパターンなら、召喚後に勇者パーティーを皆殺しにするそうじゃ」
「もう逆鱗、バリバリ立ってんじゃないですか!」
「魔王にも話は通しておいてやる。殺されないように、何が考えてみせよ」
「せっかく特別な職業もらえるのに、私の命が風前の灯火じゃないですか!」
「まあよい、ゆけ、拳聖サラよ!」
「え、いきなり?」
◆
気が付くと、見慣れた地元モージーの海浜公園野外ステージよね。
ステージには、黒目、黒髪の女の子が3人。プラス場違いな私だ。
「ようこそ!日本から来た召喚者たちよ!」
ここらへんを収めるアスカ伯爵が、定番の文句を言ったよ。
「突然のことで驚かれたと思うが、あなた方は女神ステアにより、召喚されました」
「はい、女神ステアという方に、頼まれました。事故で死ぬしかなかった私達をこちらの世界に呼び寄せたそうです」
「ご理解が早くて助かります。ではみなさん、お名前をお聞かせ下さい」
「はい、勇者の長谷川麗奈です。年齢は17歳です」
「賢者の鈴本真凛です。レナさんと同じ17歳で福岡にいました」
「聖女の金子千種。アタイも17歳。たく、癒し系じゃねえのによ」
「勇者レナ、賢者マリン、そして聖女チグサよ!ってあと一人は?」
「えー、女神様が山村紗羅さんの代わりに召喚しました。拳聖のサラです。こっから2キロくらいの場所に住んでます。17歳です」
「拳聖サラ。ん、地元民?」
ざわつく公園に詰めかけたギャラリーたち。
「誰かの代わり?」
「あれ、冒険者のサラちゃんじゃない?」
「突然消えたと思ったら、なんで召喚魔方陣から出てくんだよ」
「ブラウンの髪、あれも日本人?」
「いやいや?モージーに住んでるみたいだぞ」
「確かに見たことある」
「導かれし召喚者たちよ!我が世界を救いたまえ!」
強引に締めた!
◆◆
混乱の中、私達四人は、モージー教会に連れて行かれた。
なにはともあれ、同行したアスカ伯爵から、過去の勇者パーティーと同じ「特別騎士爵」の認定証をもらった。
「君たち、今から色んな貴族の領地に入るんだ。アスカ家が後ろ楯になって、横やりが入らないようにするための措置なんだ。うるせー貴族の2、3人なら、ぶった切っていいよ。な、チグサ君」
「うっせー、名指しすんな」
「ところでサラよ。なんで君が召喚されたのかな?」
「女神が、単純に山村紗羅って子と間違えました。間違いってわかったあとは、魔改造して拳聖にされました」
「・・」
「それより、重大な話があるの!」
女神の部屋で交わされた会話の内容を伝えた。
「最初の敵が魔王なの?」
「また死ぬのかよ・・」
「いきなりハードモードじゃないですか」
私達の旅は始まるのだろうか・・
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