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2 殺されないように考えろ
新生勇者パーティーは、ゴブリンさえ倒してないのに、命の危機に瀕している。
端的に言うと、日本で言う「ロールプレイング的展開」に飽きた魔王に代案を持っていかないと、ヤバいことになる。
全員レベル1でラスボスと戦わされるのだ。ガチに。
「レナ、お前勇者だろ。何か考えろ」
「チグサ、成り行きで勇者になった私に振らないで。考えることなら、賢者のマリンでしょ」
「私はラノベ知識はすごいですが、根は地味子です。面白いアイデアなんて、持ってません」
「うんうん、いきなり呼び捨てで、みんな打ち解けたね」
「違うよ。テンパってんだよ!」
「慌てても、時間は過ぎるばかりだよ。幸いここには日本人が三人もいる。面白かったこと、ゲームの話でもいいからしてよ。レナからお願い」
「あ、はい。対戦ゲームではないですが、アイドルを育ててステージで踊ったりさせるゲームが好きだったわ」
「アタイは格闘とか野球ゲームスタジアムとかで、ドッカーンてやつな」
「チグサはイメージ通りだね」
「私は・・」
「マリンは?」
「ゲームではないですが、やってみたかったことが・・」
「何恥ずかしがってんだよ~。もう日本じゃないし命かかってんだからさ、思い切って言えや」
「うん、一度でいいから、大きなステージで歌ってみなかったのです」
「へえー。こっちにもあるね、コンサート。日本の人が楽器作ってから、吟遊詩人のジャンルも増えて、歌手を名乗る人も増えたし。会場はあちこちにできたよ」
「サラはやりたいこととか、欲しいものは?」
「貧乏だから、お金欲しいな。恩人でもある友達や、付き合いが長いマークや街の人にはお世話になったから、返せるなら何かしたい」
「むむっ」
「なんだマリン?」
「これが賢者の頭脳なのでしょうか?閃きました!」
「教えて!」
「言ってはなんですが、私はもちろん、レナもチグサも日本人の地味顔です。日本で脚光を浴びたことがありますか?」
「ないわ・・」
「目立ったのは職員室に呼ばれた時くらいだ・・」
「踊りたいレナ、暴れたいチグサ、歌いたい私。儲けたいサラ。四人の意見をまとめました。思い切って魔道てれびとか呼んで、「魔王軍VS勇者パーティー」の公開対戦を提案しましょう」
「なにそれ?」
「え?ダメですか!」
「ごめん、否定じゃなくて、公開対戦ってのが分かんなくて」
「私達が人前で戦うのです。そうすれば、てれび放映とかやってエンターテイメントにすれば魔王も納得しないでしょうか?」
「す」
「す?」
「すごいよマリン!この世界の人間は魔王軍と勇者の戦いなんて、ほとんど見たことないんだ」
「魔道ネットとかあるから、過去の映像とか残っていると思いましたが?」
「この世界では映像を残す技術ができて、まだ30年くらいなの。前の召喚が50年前だから、魔王と勇者の物語は話でしか知らないの」
「まじてすか?勝算アリと見ました」
「ならば、魔道てれびなどとの交渉というから、話をしに行きましょう」
「魔王にダメ出しされたらどうする?」
「殺されるのかな?」
「いざってときは、魔王軍に入れてもらおうよ」
「そうですね。必死に頼めば何とかなるかも知れません。そこから魔王軍四天王を目指しましょう」
「「「ぷっ」」」
◆◆◆
次の日。心配そうなアスカ伯爵の厚意により、邸の会議室に、冒険者ギルドのギルマス、「魔道てれび」のディレクター、「勇者マガジン」などの各種マスコミ、町の有力者を集めてもらった。
魔道てれびとの交渉役は、日本で父親が社長をしていたというレナだ。
「簡単に言えば、中ボス戦以上は公開でやりたいんです。それで、会場と日時は「魔道てれび」と魔王で話し合って決めるのは、アリですか?」
「今朝、魔王ハナコ殿から連絡がありました。魔道てれびで交渉は可能です」
「なにせ、プロデュース等に関して、素人なんです。お手数をお掛けしますが、ぜひお願いします」
「乙女四人の勇者パーティーで美しさも十分にあります。ゲスな話ですが、関係者の利益も見込めます。早速、魔王ハナコ殿に交渉してみましょう」
「どうやって?」
「ケータイで」
「あるんですね・・」
「ありますよ。アストリアにも」
「ファンタジーぽくない」
マリンがぼそっと呟いた。
◆
待つこと10分、ギロチンの前に立つ気分というのは、このことだろうか・・
ガチャ。
魔道てれびの人が戻ってきた。
「OKです。魔王ハナコ殿も大いに乗り気でした」
「はあぁ、助かったあ」
「生き残れそうです」
「膝かくかくしてんぜ」
「背中に汗びっしょり」
私が代表してインタビューの人にマイクを向けられた。
「今回はなぜ、公開対戦を考え付いたのですか?」
「賢者マリンが四人の意見をまとめました」
「サラさんはどのような、理由で?」
「おか、おかね、いや、今回はおかしなイレギュラーな召還で、異世界人ではない私が勇者パーティーに加わりました」
「ふむふむ」
「考え方を変えれば、女神様にアストリア、そして愛する母国を守るチャンスをもらったと思っています。だから、人々の前で戦って応援してもらい、その声援を勇気に変えたいのです!」
「おおっなるほど」
パチパチパチパチ。
なんとかごまかせたか・・
「会場には魔王ハナコ殿と交渉して、有名な「魔王の結界」を張ってもらえることになりました。そうすれば、2時間は誰の横やりも入りません。また公開で惨劇を見せるのも無粋とされ、一定ダメージが貯まったときに反応する「救護転移陣」も申請してよいと申されてます」
◆◆
展開が早い。
その日の午後には女神の神託が降りた。
『今回の勇者パーティーと魔王軍の戦いは、今までと違う形式になりま~す。詳しくは魔王に聞いてね。どっちの陣営も余計な茶々いれちゃダメよ~』
次いで魔王からてれび、らじおでアストリアの世界に向けて発表があった。
「我が配下には、魔王軍四天王がいる。さらに、各四天王の配下にまた四人の側近を置いてあり、それが貴様らが中ボスと呼ぶ存在だ。フハハ。
すなわち、魔王である我にたどり着くまで、勇者どもと我が配下で20回の公開討伐戦をやるのだ。フハハ。
最初は2ヶ月後に決まった。魔王軍四天王、「双剣のリューク」直属四騎士の四番目「双刃のマリコ」が相手だ。フハハ。
次がまた2ヶ月後、そっからは1ヶ月置きだ。そちらが勝つ限り、魔王軍の進行は止めておいてやる。詳しくは、後日公開のスケジュール表を確認するのだ。では、サラバじゃ!」
「目隠ししてたけど、日本人だよね、魔王。根っこは普通の日本人な感じですね。それも、私と同じラノベファン」
「年も一緒くらいじゃねえか?魔王だから、すげえ怖いおっさんとかのイメージしてたんだけど、緩くね?」
「勇気と魔王じゃなかったら、異世界に来た同士、仲良くなれそう・・」
「けど、疲れた・・」
「あしたからは、ファンタジーっぽいことがしたいです」
「あ、そうだ、まだゴブリンすら倒してないんだった」
「命の危機を乗り越えたのに、レベル1のままよ」
絵本で読んだ勇者物語と、違いすぎない?
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