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5 聖女の戦いかた
最初の中ボス戦まで1日と迫ったけど、勇者パーティーはバッチリ仕上がった。
今日は指定されたウノシの町に前乗りする。
戦闘開始は、あしたの午前10時。モージーの南にあるウノシのウノシ記念スタジアムで始まる。
相手は魔王軍四天王の一人、「双剣のリューク」の直属四騎士「双刃のマリコ」だ。
写真を見たけど、うちの召喚組に引けをとらない平たい顔の美人だ。
◆
アスカ伯爵、ギルマスが引率というか、勇者パーティーの世話係として来ている。
「魔王軍、いっきなり日本人に似た美人顔を当ててきたな。やっぱ狙ったかな、ギルマス」
「ええ、美女対決で魔王も盛り上げる気だ。うまくいく気がしてきた」
「くどいようだけど、美女とはアタイたちのこと指してんだよな、レナ」
「チグサ、日本産モブ子の三人が絶世な美人って、日本人至上主義すごすぎるよ。これ現実なの?マリンてば」
「ラノベではある話です。でも、本当はドッキリじゃないかって疑ってます」
今、魔道列車に乗ってウノシに向かっている。
メンバーはまず勇者パーティー四人。
事務方というか、引率役にアスカ伯爵家のライオー、冒険者ギルドのギルマスが来てくれた。
残りが護衛で、愛しのマークやベン君の仲間で冒険者四人を連れてきた。
レナは「日本ならベン君は美少年」とお気に入りだ。
所詮ベン君は、私と同じ二重まぶたで鼻が高い普通人。好意的に評価しても、やっぱり普通だ。
平たい顔の絶世美女、レナと釣り合うのだろうか。
「レナさん、ありがとう。僕らが救世の戦乙女から指名依頼もらったって、ギルドも大騒ぎだったんだ」
「そ、それよりこれを受け取って」
「新発売の魔道スマホ?ダメだよこんな高いもの」
「女神様や魔王から緊急連絡が入るから、必要なの。そしたら助けて」
「?まあ使命なら。ありがたく使わせてもらいます」
「ぷ、プライベートで電話するかもだけど・・」
「・・あ、はい」
「ま、ま、また、し、指名していいかな?」
「あははっ、僕なんかでいいの?」
「はうううっ!可愛い」
私は、初の魔道列車はマークと乗りたかったから、ちょうど良かった。ま、マークが入ってる冒険者パーティーが潤うのは、私にとってもプラスだしね。
「駅が見えてきた」
「なに?あの人だかり」
「まさか?」
「私達を待ってたのですか?」
◆◆
その夜、「救世の戦乙女、ウノシに到着」のニュースが、世界中を駆け巡った。
「アタイたちのニュースばっかり」
「そうか、緊張感ないけど、世界の命運をかけた戦いの始まりだったんだ」
◆◆◆◆
一夜明けた。
「公開対戦」は自分達で出した企画だけど、ちょっとなめてた。
「わ、私達、本当にあの真ん中で戦うんですか?」
「もう、大歓声だよ。スタジアムの観客席も超満員で、テレビカメラみたいのまである」
「え?特大ビジョンにアタイらが映ってる」
「ちびりそう」
「あと 5分だよ」
「帰りたいです」
「もう、魔王が結界張ったから無理だ」
「よ、よ、よし行こう」
世界初の公開対戦。
勇者パーティーの「お披露目式」だ!
マリンの目算通り、スポンサー、グッズ契約の申し込みが山ほどあった。
勝てば大金持ちだ。
「とにかく「魔道てれび」に、言われた通りにやろう!MCもいるから。東ゲート前に並ぶよ」
パパッパパー、パーパーパーワワワワー!
合図のラッパだ!
パパパ、パ~。
「さあッ、みなさんお待たせしました。アストリアを救うため日本からやってきた美少女プラスワン!「救世の戦乙女」が立ち上がった!対戦の前に、魔王ハナコ様からあいさつた!」
大ビジョンの映像が切り替わった。
目元にマスクしてるけど、黒髪だ。
『フハハ。我が魔王ハナコじゃ。勇者どもの話が面白ろそうなんで、乗ってやったぞ!せっかくの観衆の前で惨劇は無粋じゃ。魔王自慢の「大結界」、「救護転移陣」を用意してやった。勇者よ、幾多の戦いを乗り越え、我を舞台に立たせてみせい!サラバじゃ!』
「魔王ハナコ様、ありがとうございました。では、勇者パーティーの登場だ!」
「もう、やるしかない!」
四人で同時に、フィールドに飛び出した。
「勢い良く飛び出したのは勇者レナ、賢者マリン、聖女チグサ、拳聖サラの四人だ!」
「勇者レナ、参上!」
「賢者マリンですぅ」
「アタイが聖女チグサだぁ!」
「間違い拳聖のサラです」
オ・・
オオ・・
オオオオ・・
ウオオォォオオオオオ!
ウオオォォオオウオオオオ!
レナアアアア!レナァ!
マリイイイイン!マリイイン!
チグサアアアア!チグサァァ!
「対して西ゲートから魔王軍の登場だ!いでよ美麗なる騎士、双刃のマリコ!」
おおっ50人くらいの手下鬼が飛び出してきた。で?左右に分かれてキレイな横一列。持ってた花びらをブワッと舞わせて?
カツッ、カツッ、カツッ…げ、中央からモデルウオーク!
「フフッ、勇者ども。その美しいお顔、私のナイフで切り刻んであげるわ。魔王軍序列20位の鬼族、双刃のマリコ!」
マリコォォォ!
ウオオオオオウォォォ!
オオアアアァァ!
2本のナイフを持った女がカメラ目線で両手を広げた。なるほど、今後のお手本だね。
ちなみに、この対戦形式は魔王が決めた。「戦隊モノの王道じゃ」と発表されたが、意味が分からない。
まあいい。さあ、戦いが始まる。
鬼族のマリコさんの手下も鬼族。上司に合わせて両手に武器持って走ってきた。
初めての鬼族だけど、最初の攻撃を手甲で受けてみたら、これは軽い。
強敵はマリコさんだけた。これなら作戦Aでイケる。
賢者マリンの「テレパシー」で秘密の会話もこっそりできる。
︵楽勝。魔道てれびのディレクターさんから言われた通り、戦闘員は1人ずつ倒して。最低でもザコ戦で40分分かけて!︶
︵了解です︶
︵任せとけ︶
︵本当にやるの?︶
特別な職業補正と女神にもらった装備が強烈すぎるよね。
本来は本気でやらないとだけど、手下で遊ばせてもらいましょう。
まず、私がテレフォンパンチでわざとカウンター食らって倒れる。
チグサは鬼さんの袈裟斬りをオリハルコンメイスで受けて、片膝を付いた。劣性をアピールしまくり。
チグサを助けに入ったマリンには、重要な仕事を任せてる。
二人の鬼さんから左右のおっぱいに棍棒の食らって、Eカップをバインバインを揺らしながら仰向けに倒れさせた。
向こうでレナは、片膝をついてるね。
「やってくれましたわね、鬼さん!」
血も出てないくせに口元ぬぐってんよ。
演出に一番渋ってたくせに、楽しんでるやん。
まあ、オリハルコン効果で全員ダメージゼロなんだよね。
20分くらいしたころでチグサからハンドサイン。こっちも、ゴーサインで返そっと。
オリハルコンメイスを高く掲げよ!
「術式が完成したぜ、ホーリーフィールド!」
四人が光り、客席がわいた。
「ありがとうチグサ!私達の絆を見せてあげる。パワーアップ、レベル4!」
私は拳を固めた。
「気功拳発動!」
勇者レナが聖剣を正眼に構え、つぶった目を見開いた。
「聖剣よ雷を纏え! さあ、みんな反撃よ!」
大ビジョンにドアップで切り抜かれたレナは実に絵になる。
手下の鬼さんたちを減らしていき、双刃のマリコさんだけになった。
「残りは貴様のみだ。降伏か死か選びな。なんなら、這いつくばって、帰ってもいいぜ」
ノリノリでメイスを双刃さんに突きつけるチグサ。
「わが僕を倒されておめおめと帰れるか!私がじきじきに相手してやる。4人まとめてかかってこい!」
「バカ言うな、アタイ一人で十分だ。うなれ、相棒!」
パアア。
おおお、メイス光ったぁ!
チグサー!チグサー!
オオオォォオオ!
予定にはないけどナイス、チグサ!
現時点で一番強いのは元々が冒険者だった私だけど、「任せる」の一択だね。
すんげぇ盛り上がってる。やばい、病み付きになっちゃう。
「おおっ、すげぇスピード!けど見える。聖女のアタイでも対抗できてんな。女神の恩恵ってやベェ!」
「ぐっ、さすがのパワーだな、聖女よ。技は未熟でも、基礎ステータスがとんでもない。美しさとパワー、それがお前の売りか!」
「アタイに美しさなんてねぇよ!」
ガギッ、ガガッ、ギンギンギンッ!
傍目から見るとすんごいよ。チグサはメイスをブン回してるだけだけど、双刃さんが跳んだりして、うまく合わせてる。なんか、激しく踊ってるみたい。
おおおおぉ!すげぇぇぇ!
美麗対決だ、やれぇぇぇ!
ガ、キンキンキン!
「うがっ、聖女パワーがあっても、培った技術に差がありすぎかよ」
「ほほっ、そろそろ宣言通り、その顔を切り刻んであげるわ、ふん!」
カカッ、カカッ!
「ちくしょ、完全に動きを読まれてんな」
「あ、き、ら、め、なさい」
「くっそう!」
「あなた、それだけの美貌で、言葉使いが汚いわ。お仕置きね。ほら、まずほっぺたを切り裂いてあげる!」
「へへっ、甘いのそっち。狙い通り」
ザグッ!ゴギャッ!
「いででっ!」
「ぐぎゃっ!あががっ」
あ、相討ちだ。ナイフにメイスを合わせたんだ。だけどチグサ、キレイなほっぺたが血だらけだよ。
客席から悲鳴が上がってる。
「ああ~私の美しい口元が、鼻がぁ~~。何すんのよ、聖女!」
「うっせぇ。こっちは作戦成功だよ。相討ちだけど、ダメージはそっちがはるかに上だろ」
「・・その顔なら、あなたも美貌が自慢でしょ。あえて犠牲にするなんて」
「ドアホ。アタイ自身が大した顔とも思ってねーんだ。たまたまこの世界に来て、ちやほやされてるだけだ」
「そんな・・」
「そっちこそ、スキありだ!アタイの魔力を好きなだけ持ってけ相棒!うなれぇオリハルコンメイス!」
「あああ」
「うおうりゃあああ!」
カッキーン!
あ、双刃のマリコさん、飛んだ。
ドーン!
あ、爆発した。
「救護転移陣」とやらは発動したのかね。死んでないよね・・
オオオオォォ!
サイコオォォォ!
チグサアアアアァァァ!
「うお~い。サラ、レナ、マリン、こっち来いよ。一緒に勝ちどき上げるぜ」
「すごいです、チグサ」
「自分のこと、美人と思ってないから、あんなことできるんだよね」
「私達、実際に美人じゃないですし」
「そうよね。日本なら三人とも地味顔だし・・」
「あはははは!ナイスだよチグサ。ほら、スタジアムが盛り上がってるし、お客さんに応えようよ!」
「だね」
「はい!」
とりあえず魔王に合格点もらえたかな?
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