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俺とお前の出会い
職員室に着いた俺は担任の先公と軽く挨拶を交し、ホームルームが始まる時間まで待合室で待たされることになったんだ。
編入する前に説明は受けていたが、この高校にはβの生徒とβの先公しかいない。
そう、とある理由でαの性を隠す俺にはもってこいの条件だった。
Ωなんていたもんなら俺は俺を隠しきれなくなっちまうし、その瞬間に周りに嘘がバレちまうかもしれない…
なんでβの学校にαがいるんだよ…
なんだαだからって冷やかしか?
エリートはエリートの高校にいりゃいいだろ…
言われてみればその通りの内容だとしても、俺には俺で色んな悩みがあるわけだ。
分かって欲しいとも思わない…分かってもらったところで寂しさや苦しさが増すだけだ…
だから、何事もなく嘘をついてでも静かに過ごせれば、俺としては万々歳なわけなんだ。
はぁ…やっぱりめんどくせぇな…
そんな事を思っていたけれど、気付けばホームルームの時間も近付いていて、俺は先公に連れられ、今年一年を過ごすことになる三年二組の扉の前で、またまた待たされることになったんだ。
◇ ◇
「おう、入れっ」
先公の声が聞こえる……
入れだ?扉ぐらい開けとけよ……
俺は「はぁ…」とため息をひとつ零し、扉を開け、教壇の前へと足を運んでいった。
みんな俺の姿を見るなり、ソワソワしやがって…悪者みたいな顔で見てきやがる…
まぁ無理もねぇよな…俺がそうしたいと、一人でいたいからと取ってる態度なわけだしな…
先公に名前を紹介され、とりあえず軽めの挨拶だけを発してみたんだ。
「山際 大和です…よろしく…」
こんなもんでいいだろ…
俺のことはほっといてくれれば、それだけでいいから…誰も俺に関わらなくていいから…
ザワつくクラスメイトを他所に、先公は俺の座る席を指さし、俺は周りを気にもせず席に向かっていった。
そして、席に着こうとしたその時だった…
お、おおおおっ…おい…な、なんで…
なんでここにΩがいるんだよっ…!
し、しかも…っ!く、くそ…くそっ!!
そう…俺の目に飛び込んできたのは、俺の後ろの席に座る黒縁眼鏡をかけた男子。
αの俺はΩが発する特有の香りを察知することが出来る。
この学校には、βの性を持つやつしかいないって聞いてきたんだぞ…!?
でも…確かにこれは、フェロモンだ…
ただ、ここで反応してしまっては…!
一瞬、黒縁眼鏡のΩと目が合ったけれど…
俺は咄嗟に目を逸らし、背を向けて席に座り込んだんだ。
だぁっ…!もう、訳わかんねぇよっ…!
αという事を隠して生活を送りたかったのにΩがいるのは予想外だ…
俺は、静かに過ごすことが出来るんだろうか…
ただ、そんな思いとは裏腹に、俺は違う気持ちにも胸をギュッと締め付けられていたんだ。
黒縁眼鏡…俺より小さい…
透き通った眼鏡の奥の瞳…
くそっ…可愛い…
可愛すぎんだよ…バカヤロウ…
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