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──電車に揺られ二時間
二人で過ごす時間は、いつでもあっという間で、気付けば実家の最寄り駅に俺たちは降り立っていた。
俺の住む街は、裕翔が住む街とは全くと言っていい程、正反対で高層ビルが数十棟も立ち並ぶ大都会だ。
裕翔は生まれてから一度も、大都会に来たことがなかったらしく、裕翔がΩを隠しながらαやβの人が大勢集まる大都会に足が向かなかったのは、何となく想像がつく。
そんな裕翔は、初めての大都会で迷子にならないよう、俺の傍から離れず大都会の景色に目をキラキラさせながら歩いていた、その時だった。
俺と裕翔の元に黒いスーツを着たイカつく、ガタイもしっかりとした大人の男性が三人も詰め寄ってきた。
その光景に怖くなってしまったのか、目をキラキラとさせていた裕翔は一変、俺にしがみつき少し身体をブルブルと震わせてしまっていたんだ…
おいおい…お前ら…ふざけんなよっ…?
裕翔をビビらせんじゃねぇよ、バカっ!
「はぁ…おめぇら、圧が強ぇんだよ…こいつビビらせてんじゃねぇよ!」
「っ!や、大和様!も、申し訳ありません!…そのお方が…裕翔様ですね?」
「ああ、そうだ」
恐怖心からオドオドとしている裕翔は、一体何が起きているのか、状況を把握することも出来ず、ただただ俺にしがみついていたんだ。
そりゃそうだろ…ガタイの良い奴に裕翔様だの大和様だの言われて、戸惑わねぇやつの方がびっくりするよ…
俺は、しがみついた裕翔と一緒に歩みを進め、俺がいつも乗っている黒い高級車の前へと着き、ボディーガードが後部座席のドアを開け「大和様、裕翔様、どうぞ」と声を掛けてくれたけれど…
裕翔はもう、何が何だか全ての状況が掴めず、ただただアワアワしていたんだ。
「や、や、大和…っ!?」
「うん?ああ…驚くというか訳わかんねぇよな?大丈夫、変なこともないし、車の中でちゃんと説明するから…ほらっ裕翔、先乗って?」
俺の言葉に戸惑いながらも素直に車へと乗り込み、高級車の車内を見渡す裕翔。
真実を隠している俺が悪いのは重々承知…
それでもこれが俺の本当の顔なのと、これが俺の家族の形なんだ。
これから俺の全てを話すことになる…
その最後の事実を聞いたとしても…
俺はお前が離れていくとも思っていないし…
俺は絶対にお前を離さないから…
俺も裕翔の隣へと座り込み、ボディーガードがゆっくりと扉を閉め、俺たちを乗せた車は実家へ向けてゆっくりと動き始めたんだ。
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