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──食事も食べ終わり、裕翔は片付けをしようとしてくれたけれど、それは家政婦さんの仕事だ。
家政婦さんが食器を片してくれている時、父さんが「裕翔くん、少し大和を借りてもいいかな?」と裕翔に声をかけ、二つ返事で裕翔は快諾してくれていた。
えっ…一体、なんの話しだ…?
俺、何も聞かされてないんだけれど…
裕翔の返事に父さんもニコッと微笑み返し、俺は父さんと一緒にダイニングルームを後にし、そして、久しぶりに父さんの部屋へと通された俺は椅子に腰を掛け、父さんも俺と対になるように椅子と腰をかけたんだ。
「父さん、話ってなんだ?」
話の内容を聞かされずに部屋へ連れてこられた俺は、早速父さんに問いかけてみたんだ。
「大和、良かったな」
「…えっ…?」
「裕翔くんと駿くんが傍にいてくれて…そんなお前に今日は、ちゃんと話しておきたいことがあってここに来てもらったんだ」
父さんは嬉しさの裏側にどこか寂しい表情を見せながら、俺に思いの丈を一つずつ紡ぎ合わせてくれたんだ。
「父さんも母さんもお前を見届けてやる事しか出来なかった…辛い思いや悔しい思いをして学生生活を送り続けて、私は仕事も忙しくて、お前の気持ちにも寄り添ってやれていなかった…」
「高校生活が終われば、お前には宿命が待ち構えているのに…人生で一度きりの学生生活を楽しかったと胸を張って過ごして欲しいと考えていたのに、私たちは何も出来なかった…」
「…でもな、転校をして…お前がみるみる表情を変え、生き生きと楽しそうにしている姿を急に見れた時、私は嬉しくて嬉しくて堪らなかった…お前は知らないだろうけれど、母さんも私の前で泣いて喜んでいたんだよ?」
「…父さん…母さん…」
「裕翔くんってどんな子なんだろうか…駿くんってどんな子なんだろうか…私たちが振り向かせてやることの出来なかった大和を…大和の笑顔を取り戻してくれた親友は、どんな子たちなのだろうと…ずっと考えていた…」
「そんな大和が年末年始…悲しみと苦しみの中、引きこもる姿を私たちは見守るのではなく、大和の思いに賭けてみようと思っていたんだ…」
「今の大和なら…自身で自分の道や思いを親友や大好きな子達と乗り切っていける…もう大和はきっと一人なんかじゃないんだと、私たちはそう感じていた…」
「そして、今日…番を結び、幸せそうな表情で私たちに裕翔くんを紹介してくれた…この子が裕翔くん…大和を振り向かせ、笑顔を取り戻してくれた優しく温かい心を持つ男の子…」
「話をすればする程、この子で良かった…この子なら大丈夫だと確信に繋がっていったんだ…」
父さんの本当の思いに、俺の胸は熱くなり、涙も溢れてしまっていた…
いままでずっとずっと…どうしたらいいものなのかと、心配していてくれていたんだ…
そして今、その心配事から解消され、父さんは俺と裕翔の番を認めてくれた訳だ…
「…なぁ、大和…?」
「…グスッ…な、なんだ…?」
「…最後の高校生活…楽しかったか…?」
「…ううっ…グスッ…ああ…最高だったよ…」
最後の高校生活がこんなにも楽しく、そして時に辛く悲しいこともあったけれど、大切な二人に出会い、陰ながらずっと両親が支えてくれていたから今の俺が存在している。
そう思い返せば返す程…俺は涙が止まらなくなっちまっていた…
裕翔…駿…そして、父さん、母さん…
本当に…本当にありがとう…
「大和、良かったな?いいパートナーと親友が出来て…それともう一つ…お前に大事な話があるんだ…」
「…いいか…?これからお前にとって裕翔くんはかけがえのない存在として、ずっとお前の傍にいてくれる…それは、母さんも同じなんだ…」
「Ωの彼らを愛すると決めた私たちは、彼や彼女の居場所を奪ってはいけない…私たちの手で大事な居場所を守り続けてやらねばいけない」
「それが…どういうことか…もうお前なら分かるよな…?」
裕翔の過去の苦しみを知っている…
一度居場所を失い、傷付いた裕翔…
その事実を知っているからこそ、俺が裕翔を守り続けていきたい…
今ある裕翔の居場所を…
もう二度と失わせたくなんかない…
それを叶えてやれるのは、裕翔が選んでくれた俺だということ…そして、パートナーとして番を結んだ俺だけだということだ…
ただ、俺だけで出来ないことは【親友の証】を持った駿やこれから出会う仲間がきっと支えてくれるはずなんだ…
もう、俺たちは一人なんかじゃないから…
「…ああ、分かるよ…俺が…俺たちが裕翔の居場所を守ってみせる…あいつを絶対に一人になんかしないと約束するから…」
「ちゃんと聞いたからな?男同士の約束だぞ?ただ、辛くなったらいつでも相談しなさい。親として、そして一人の男として相談に乗るからな?」
涙を流す俺を尻に、父さんはニコッと微笑みながら俺に勇気と力強いエールを送ってくれた。
そして、もう一つ…父さんから大事な話を告げられた俺は、涙と共に自分の思いをしっかりとまとめあげ…裕翔がきっと待っている自分の部屋へと戻っていったんだ。
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