二人の居場所、俺はお前を離さない

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 父さんからの叱咤激励を胸に、俺は腫れぼったい目のまま自分の部屋へと足を運んだんだ。  裕翔はもう、戻ってきているのかな…?  裕翔は、どんな反応を示してくれるのかな…?    俺の思いを裕翔はどんな風に受け止めてくれるのか…不安が混じりながらも俺は自分の部屋の扉を開けると、そこには… 「裕翔?」 「や、大和っ…!?ご、ごめん!勝手にベッドに入っちゃったりして…!」  俺のベッドの上で、俺の濃厚な匂いに包まれながら、タコちゃん人形を可愛く抱きしめた裕翔の姿があったんだ。  勝手にベッドの中やタコちゃん人形を抱いちゃって申し訳ないと、アワアワして焦りを隠しきれていない裕翔の隣へ俺はそっと腰を添え、優しく微笑みかけてあげた。 「俺の匂い…そんなに好き?」 「…うん…大好きっ…」  裕翔の大好きという言葉に、俺の‪α‬の本能が刺激され、とにかく身も心もいつも以上に裕翔を求めている…それは、裕翔も同じようだったんだ… 「や、大和…」 「…ああ…言わなくていい…」  俺の濃厚な匂いに包まれていた裕翔の身体からは、俺を求める甘ったるいフェロモンが溢れ出していたから…  そして俺は、黒縁眼鏡をそっと自分の顔から外し、裕翔の顔に優しく掛けてあげたんだ。  いつもより裕翔が恋しい…  裕翔…俺にお前の温もりを感じさせてくれ…  俺はそのまま、手元にある照明のスイッチを押し…明るかった部屋は薄暗くなり…  俺たちは両親にバレないように、息を殺しながらも激しくお互いを求めあったんだ。  ◇ ◇  ──お互いを激しく求めあった俺たち  そんな果てた俺たちは、ベッドの上で天井を見つめながら手を繋いでいた。 「…ねぇ…大和…?」 「…ん?なんだ…?」 「…どうしてそんなに目が…」 「…そういう裕翔だって…」  俺は父さんと話していて目を腫らしたけれど…裕翔は裕翔で、母さんと話をしていて目を腫らしてしまったらしい。  母さんは裕翔に何を伝えたのだろうか…  母さんの事だ…優しく、そして力強く裕翔の背中を押してくれたんだろうな…  母親として…社長の妻として…  そして、同じΩの性を授かった人生の先輩として…  天井を見つめていた俺は、そっと裕翔の顔に目を向けると裕翔も俺の方へと目を向けてくれていて…俺は裕翔の目を見つめ、俺の願いと思いの丈を吐き出していったんだ。 「裕翔…俺さ、お前に出会えて本当に良かった…お前がいなきゃ、俺…俺さ…ずっと一人だったんだよな…」 「ぼ、僕だって、大和に出会わなかったら…一人で嘘をつきながら生きて、ずっと孤独だったもん…」 「なぁ、裕翔…?」 「…なに?」 「これから俺は、俺らの形で過ごしていきたいんだ…」  俺のこの言葉が何を指しているのか、裕翔はよく分からずに俺の顔を見つめているようだ。 「大和…それはどういうことなの…?」 「俺…仕事はちゃんと継ぐよ……ただ…」 「ただ…?」 「俺は…裕翔と二人で生活がしたい…ずっと裕翔の傍にいたいんだ……俺さ……家を出ようと思う…そして、お前ん()で仲良く二人で暮らしたい…」  俺が指していた俺たちだけの形…  そう、それは俺の巣立ちのことだったんだ。  御曹司であり、家系を継ぐのは宿命であったとしても、人生そのものは俺のもの…  そして、裕翔とのものでもあるんだ…  この家で家族全員で過ごすのも一つ  親から離れて、二人きりで過ごすのも一つ  その選択肢は、俺と裕翔に委ねられている。  それが父さんからの大事な話の一つだったんだ。  俺の願いは裕翔と二人きりで暮らす事…  裕翔…裕翔の素直な気持ちを俺に教えて欲しい…  そんな俺の思いに、裕翔は素直な思いを俺のために紡いでくれたんだ。 「大和…僕の家に帰ってきて…?明日も…そしてこれからもずっと…僕の傍に帰ってきてくれる…?」 「ゆ、裕翔…」 「僕は、大和の家のようにたくさんの料理は作れない…時に家事も疎かになるかもしれない…それでも僕は、大和の帰りをあの家で待ちたい…」 「僕と大和だけの大切な居場所でずっとずっと…仲良く暮らしていきたい…でも、時にはここにも二人で帰ってこよう?」 「お父さんとお母さんに、僕たちは幸せだよって笑顔で戻ってこれるように、二人で支え合いながら生きていこうよ…」 「…ゆ、ゆうとぉ…」  俺は裕翔からの温かく、がっちりと固まった決意にハリネズミをシュンとさせながら、腫れぼったい目からまた涙を流しちまった…  そんな俺の嬉しい涙につられて、裕翔も涙を流してくれていたんだ。  大丈夫…俺たちなら出来る…  だってお互いをこんなに求め合って、お互いがお互いをこれだけ必要としてるんだから… 「ねぇ…大和…いつものあれ…言ってよ」 「…グスッ…ああ…」 『お前は…ずっと、俺のものだ…』 「…うん…なら…」 『大和もずっと…僕のものだよ…』  お互いに意を決し、涙を流しながら笑い合う俺たちはそのまま手を繋ぎ、そっと眠りへとついたんだ。
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