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1.夏の朝
「うきゅ」
ある夏の日の朝。子狐娘の狐乃音は目覚めた。
「……ん?」
熱帯夜だったけれど程良く冷房が効いていて、寝苦しさとは無縁だった。とてもありがたいことだ。
狐乃音はふと、窓の外を眺めてみた。鮮やかな朝焼けで、とてもいいお天気のようだ。今日の最高気温は、はてさて何度になることやら?
畳敷き。古びた旅館のような広い和室に、布団が二枚並んで敷かれている。狐乃音が寝ているすぐ側にはお兄さんがいる。
「うきゅ~」
狐乃音はじゃれつくように、お兄さんにピタッと張り付いていた。
「ん……。どうしたの?」
「きゅ!」
眠りが浅かったのか、お兄さんは目覚めていた。それでも狐乃音はぎゅっとお兄さんにしがみついて離れなかった。
まるで、甘えん坊な子供のよう。
「どうしたのかな?」
「うきゅうきゅ」
よくわからないけれどこのままでいて欲しそうだ。狐乃音の様子を見て寝ぼけているのかなと、お兄さんは思ったようだ。
「いいよ。おいで」
お兄さんは微笑みながら、狐乃音と共にころんと横になった。
目と目が合って、二人は笑った。
「今日の狐乃音ちゃんは甘えん坊さんモードなのかな?」
「きゅぅぅ」
そうなのですと頷く狐乃音。
「よしよし。いい子いい子」
狐乃音はそれからたっぷりと、頭を撫で撫でしてもらった。丁度人の耳に当たる部分には、ふさふさでぴょこぴょこな狐耳があった。
頭と一緒に耳も撫でてもらうと、狐乃音は気持ち良さそうに目を細めた。ゴロゴロと、猫のように喉を鳴らしている。
もっともっとと狐乃音は望んだ。撫で撫でが嬉しい。
「うきゅん」
そして狐乃音はそのまま二度寝をした。最高に心地の良い、幸せな一時。
――の、はずだった。
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