走光性

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 当日券はまだ数に余裕があるようで、すぐに買うことができた。嫌に音が響く硬い床にヒールをぶつけながら指定された席へ座ると、斜め前の席に先ほど前を歩いていた女性二人の姿が見えた。 「ヒナタ今回何役?」 「あー、なんかモブ生徒っぽいよ」 「えーもったな! モブって顔してないでしょ!」 「ねー」  どうやら彼女たちの目当てである「ヒナタ」さんは脇役での出演らしい。そういえば、今朝見たあの人はどんな役柄なんだろう。何の予備知識もなしに踏み込んだ劇場の中で、緊張と期待感が入り混じる。  空席目立つ中、開演ブザーが響き渡る。目の前で構築されていく仮想の世界の中に、私たち観客は段々と引き込まれていった。
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