ファイル5 ケイ子さん

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ケイ子さんをうちで見かけたのは、多分3、4回くらいだったと思う。土日の日勤帯のヘルプとして他の病院から応援に来たのが彼女である。聞いた話では50代のベテランで、算定もできるらしいとのこと。礼子姫の章でも書いたが、冬場の当番日はとにかく忙しい。新人が1人入るだけで足を引っ張りかねないのだ。そんな中でベテランさんが応援に来るのはありがたい。しかしながら、ケイ子さんを見て早々に「帰れ!」と言いたくなる人は少なくなかっただろう。 相変わらず人手不足なうちの病院は、夜勤と土日に他の病院のスタッフさんがシフトに入ることでどうにか回っていた。良く見かけたのは鎌ヶ谷さんという男性で、ちょっと変わった経緯で隣県から転勤してきたらしい。というのも、うちの県に異動した本部の支店長をわざわざ追いかけて一緒に転勤してきたというのだ。噂を聞くだけでも驚きだが、本人も堂々とひけらかすのでさらに驚いた。 そもそも、本部の異動は割とギリギリな時期に発表される。そのギリギリで「自分もついていきます!」が良く通ったなと思ったし、支店長は会社の指示で異動するからそれなりの手当は付くが、鎌ヶ谷さんは志願して異動したため、引っ越し代等は自腹だし家探しも当然自分でやったという。彼が独り身だからこそできた荒業だろう。しかしながら、支店長も鎌ヶ谷さんも40代のいい大人なのだ。まさか社内おっさんず…ゲフンゲフンと妄想を打ち消して、当番日を迎えることにした。実はケイ子さんとは今日が初顔合わせになるのだ。 さてここで、鎌ヶ谷さんからケイ子さんの話をざっと聞いたわけだ。じゃあ戦力になるんですね?と尋ねたが、鎌ヶ谷さんは何故か返事をしなかった。
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