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プロローグ:五里霧中
「……う……ん?」
ゆるやかな風の流れを感じて目を開ける。夜空には満月がこうこうとかがやいている。からだを起こすと、目の前には川があり、ごうごうと音をたてている。
……なんだっけ。
なんでこんなところにいるのかが思い出せない。よく思い出そうと、もういちど目をとじて考える。
……そうだ、きもだめし。今日は林間学校で、キャンプ場にいたはず。夜、おれはおばけ役として木のかげにかくれてて……どうしたんだっけ。
寝ぼけているようなすっきりしない頭に手をあてて、とりあえずここがどこなのか、まわりを確認しようと目をあけ――いつのまにか目の前に、見知らぬ女のひとが立っていた。
長い黒髪に、黒のパンツスーツ姿。大学生くらいに見えるような気がするのは、『就職活動』ということばを連想したせいかもしれない。
手には白木の杖を持っていて、その先では青白い炎のようなものがゆらゆらとゆれている。『ようなもの』と思ったのは、杖が燃えているわけではなく、杖の先から少しはなれたところにうかんでいるように見えるからだ。どこかで見たような杖だなと思ったら、テレビで見た、富士山で売っている杖や、お遍路で使う杖に似ている。確かあれにもちゃんと名前があって、やたら強そうな名前だなと思ったような気がする。
こっちの様子をうかがうように少しかがんで首をかしげていて、髪のあいだからのぞく耳には、紫色の宝石のピアスが光っている。
目が合うと、待ってましたと言わんばかりにぱあっと満面の笑みをうかべ、こう言った。
「気がついたね?
さっそくだけど、いい知らせとわるい知らせがあるわ。どっちから聞きたい? ……いちど言ってみたかったのよね!」
それよりあんたはだれなんだよ。
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