第壱噺

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亮一「暑いなぁ…」 亮一M「やっと長い梅雨が明けて、カラッと暑い夏の休日。 僕は暑さのあまり日陰を探して歩く。建物の屋根に出来る無機質な影や、木漏れ日指す優しい植物の影…こうやって影を求めて歩いていると、ちょっとした忍者になった気がして楽しい。すれ違う人の視界に入らないように 身を潜めて隠れ歩くのは難しいなーと、簡単に思ってみたりする。」 平井M(ここは真面目に) 「だが、本物の隠者(いんじゃ)というのは 視界に入らないようにするだけの簡単なものではないのだろう。己の姿だけではなく行方や存在を完全に消さなければならないのだから。    マスコミや公衆に知れ渡った『隠者』なぞそんなものは隠者ではない。誰にも見つかってはならない、誰の記憶にも残してはならない、誰一人として己の存在を知ってはならない。     世界中の人という人がその存在を認識してはいけない…それが本物の“隠者”というものなのである。」 正史(タイトルコール)『隠者は闇の中で暗躍する』 亮一「えーっと…確かココ付近だったような気がするんだけど…」 平井「あれっ 亮一君?」 亮一「えっ!?」 平井「ねぇ君、亮一君でしょ?」 42445224-609e-4c88-b560-e3bf986b7bd7 亮一「はい…あの、貴方は?」 平井「え?あぁ。僕は平井太郎。君のお父さんの助手をしているんだ。」 亮一「助手?助手なんかいたんだ…てことはここら辺に探偵事務所が…?」 平井「うん。すぐ近くだけど…なんで?もしかして依頼?」 亮一「いえ、夏休みの期間を利用して、父さんは何の仕事をしているのかを自由研究のテーマにしようと思って。」 平井「へぇー職業体験ってやつ?    で、その事はお父さんに伝えてあるのかい?」 亮一「そ、それは…」 平井「伝えてないんだ。」 亮一「ハイ…父さん凄い頑固だから、前にも職場を見たいと頼んだんですけど、断られてしまって… せめてどういった仕事をしているのか分かればと思って、コッソリ見に行こうと。」 平井「じゃあ 僕も一緒に頼んであげよっか?」 亮一「えっいいんですか?」 平井「助手である僕からも頼んだら きっと承諾してくれるよ。」 亮一「あ…ありがとうございます!」 平井「事務所はコッチだよ。ついて来てー」 亮一M「平井さんについて近くの十字路を右に曲がると、そこには僕の苗字が掛かれている事務所の表札が付いている石の門があった。」 ~事務所 玄関~ 平井「先生ー!ただいま帰りました!」 正史「おぉ、済まないな平井。暑いなか買い出しに行って貰っ…ん?」 平井「あ、丁度良かった。ついさっき」 正史「誰だ?その後ろに隠れている子供は…。」 平井「え?あぁ。ほら、亮一君」 亮一「…と、父さん。」 正史「(観念したかのように)ハァ…何だ」 亮一「ぼ、僕も…その…夏休みの間だけでも良いから…参加してみたいんだ…」 正史「…何をだ」 亮一「……た、探偵の 仕事を」 正史「駄目だ!!」 平井「えー!?」 正史「お前は何も分からないだろう!探偵という職業がいかに大変で危険なのか!!」 亮一「それじゃあせめて探偵は何をやっているのかだけでも話して教えてよ!    お父さんの口からで良いから!」 正史「いいや駄目だ!今すぐ家に戻りなさい!今すぐ!」 亮一「ちょ、ちょっと父さん!そんな強く押さなくても…!」 平井「まぁまぁ先生、落ち着いて下さいよ。ね?」 正史「平井…。」 平井「亮一君、夏休みの自由研究の一環で職業体験をしてみたいそうです。    ですから、簡単な雑務だけでも良いので。    先生の近くに一日だけ、亮一君を置いてあげたらどうでしょう。ね?」 正史「平井。今日は何がある日か覚えているか?」 亮一「?」 平井「もっちろん。最近この近くで多発している誘拐事件の被害者の話を聞きに行くんですよね!」 正史「探偵の心え 1つ!」 平井「へぇ?」 正史「探偵は、いついかなる時でも事件に関係無い一般人に仕事内容を口外しない事!!」 平井「いっぱんじん…あ。」 亮一「父さん 誘拐事件って…何かあったの?」 正史「ハァー…まさか息子が首を突っ込んで来るとはな。しかもわざわざここに来てまで」 平井「え、えへへ…さっき近くで亮一君を見かけまして…私から声を掛けて事情を聞いたんですよ。」 正史「で?事件の内容も喋ったのか。事件を知らない、一般人に、ペラペラと!」 平井「いやいやいやwまさかそんなドジを私が踏むわけないじゃないですかーw」 正史「踏んだんだよ!たった今!お前が進んで喋っちまったんだろうが!」 平井「えっへへぇーw」 正史「コイツ…ドジだしマヌケでよくポカやらかすから。ホント天然だな とは常日頃から思っていたが…まさかここまでとは。」 亮一「でも、平井さんは助手で 父さんの仕事をサポートしてるんでしょ?一応。」 正史「ああ。お茶をもろくに注ぐ事の出来ない助手だがな。」 亮一「それって助手失格なんじゃ…」 平井「そんな事ないですよ!その気になればちゃんとお茶注げますから!あ、ホラ この前出したあの“宇治抹茶の金時白玉練乳~ソフトクリームを添えて~”だって上手に出来たじゃないですか!」 正史「“茶”しか合ってねぇんだよ!あの時俺は“近くの自販機で冷たい緑茶のペットボトルを買ってこい”って頼んだのに何でお前お手製のかき氷が出てきたんだよ!」 平井「でも喉潤いましたよね?」 正史「いや美味かったけども!」 亮一「食べたんだ…」 ~応接室~ 正史「ったく 玄関で言い合ってもキリがないから、とりあえず応接室に通したが…」 亮一「父さん!平井さんの言っていた誘拐事件がどうしたの!?何か進展あったの!?」 正史「これはお前が首を突っ込むような事件じゃないんだ!帰れ!」 亮一「な、なんでそんなに…」 平井「まぁまぁ先生。そうこう言っている間に訪問の時間ですよ?そろそろご準備なされたらいかがですか?」 正史「え?あぁもうそんな時間か。早く支度しないとな…」 亮一「支度?仕事?どこ行くの?」 正史「お前には関係ない!」 亮一「うっ」 平井「まぁまぁまぁまぁ…先生、午後から雨が降るそうです。念のため傘も準備したほうが…」 正史「そうだな」 平井「あと、先生の探偵鞄の中にある各道具の補充をそろそろしなさった方が…」 正史「そうだな」 平井「それと、亮一君もご一緒に同行なさっては?」 正史「そうだな…ってぅおーい!何故さり気なく亮一をも連れていく流れを作った!」 平井「良かったですね亮一君!ようやくお父さんから許可が降りましたよー^^」 亮一「わーい!^^」 正史「おいおいおい何勝手に進めてんだコラ!」 平井「大丈夫ですよ!いざとなりましたら私が亮一君を守りますから! えっへんプイ!」 正史「ドジすぎるお前がそんな言葉吐いても全然説得力無いし むしろ不安しか無いんだがな…ハァ 仕方ない。」 亮一「? 誰かにメール?」 正史「ウーン…アイツに頼るのは嫌と言うか、腹立たしいと言うか、かなりしゃくに障るが…そうもこうも言ってられん」 亮一「頼る?」 平井「警部さん とかですか?」 正史「ま、そんなとこだ…ホラ平井、お前もさっさと準備済まして来い」 平井「わっかりました!シッカリと丸太の準備してきますね!」 正史「彼岸島に行くわけじゃねぇよ!!」 ~数分後 車内にて~ 亮一「へぇー!あの連続殺人事件って父さんが解決してたんだ!」 平井「そうですよー?あの時は本当に誰もが犯人が見つからないと諦めてましたからねぇ…シミジミ」 正史「おい あんまりそうやって一般人にペラペラ喋るんじゃない。あとオノマトペは口に出して言うもんじゃない 」 平井「いーじゃないですかー 過去の偉業くらい話しても仕事に支障は無いでしょ?むしろプラスになって良いこと尽くしですよ^^」 正史「何がプラスになるんだよ」 平井「先生のモチベーションとかやる気に繋がる(`・ω・´)」 正史「そんなん要らんわ」 亮一「本当に 父さんは探偵だったんだね…凄いや!」 平井「フフ…最近はもう一つ、警察直々から調査依頼が来てましてねぇ」 亮一「え、今日行く誘拐事件とは別に もう一つ事件があったの?」 平井「ええ。実は―――」 ~*~*~*~ ~同時刻 某所~ 警備員1「ふあぁ~…」 警備員2「おい 呑気に欠伸なんかしてる場合か」 警備員1「っと、すんません。」 警備員2「そろそろ時間だぞ。早く行かんか」 警備員1「ああ、もう巡回の時間か…     でも別にいんじゃないっすかね?行かなくて」 警備員2「いいわけあるか。」 警備員1「だぁってこんなまっ昼間ッスよ?深夜ならまだしも こんな人が沢山いる時に盗まれたーとか、エラー吐いたーとか、そんなトラブルあっても直ぐに対処出来るし… 」 警備員2「そうゆう問題じゃないだろ。いーからホラ、とっとと行って来いって。」 警備員1「ふぁ~い」 警備員2「欠伸しながら返事すな」 警備員1「えーっとぉ?この警備カードをスキャンして…と。よし これでセキュリティ切れた。さてさて、今日も我らの人形ちゃん達はちゃんと………!? な、無い…彼らがいなくなってる!!いつの間に!誰が!?」 警備員1「…ん?なんだこのカード…!!(息を呑む)     こ、このカードってまさか…!?」 (警備員は腰に付けている無線を取り出した) 警備員1「き、緊急事態です!緊急事態です!先輩!」 警備員2「おーどうした。まぁたエラー吐いてたかぁ?」 警備員1「違います!彼らがいなくなっているんです!」 警備員2「は…ハアァ!?」 警備員1「でも代わりに、彼らのケースの中にカードが1枚入ってました!」 警備員2「カード?…まさか!     くそっ!やられた!“怪人”め…!!」 ~*~*~*~ ~再び 車内~ 亮一「…怪人?」 平井「ええ。先日、国立美術館から盗まれた人形の行方を調査して欲しいと依頼を受けまして…」 正史「おい平井!一般人に軽々と事件の事を話すなとあれほど…!」 平井「まぁまぁいいじゃないですか。亮一君も立派な探偵の息子ですよ。」 正史「じ、自分の息子までも、わざわざ探偵になる必要など…(ブツブツ」 亮一「で、今回の調査する事件って何なの?その人形と関係してるの?」 正史「いや、それとは別件だ。    …あの時 平井の口から聞いたと思うが    最近、この町内で誘拐事件が多発している。」 亮一「う、うん…」 平井「誘拐された被害者は全員学生。しかも男性…男の子らしいです。」 亮一「つまり…男子学生だけを狙った誘拐、てこと?」 正史「そうゆう事だ。」 亮一「フーン…ん?    え そ、それってもしかして…僕も含まれてる?」 正史「(深いため息)だからお前に知られたくなかったし 連れて来たくなかったんだ。」 亮一「ひ、ヒエェ…(°д°;)」 平井「でも大丈夫ですよ。今日はその誘拐された男の子のご両親の話を聞くだけなので。    しかも 私と先生の大人二人が一緒にいるんですから、そう簡単には誘拐されませんよ。」 正史「だと、いいんだがな。」 平井「えっへへぇ~」 亮一「…?」 亮一M「何だろう、この空気…」 ~また数分後~ 正史「…おい。本当にこの道で合ってんだろうな。」 平井「はい!この紙地図によると、次の十字路を左に曲がって、ちょっと進んだら目的地なので、もう少しっぽいですね!」 正史「被害者の家は住宅地の中だぞ。」 平井「はい!そうですね!」 正史「今俺たちが車で走ってるのは森の中だぞ?」 平井「はい!そうですね!」 正史「こうやって木製の吊り橋をわざわざ車でガタガタ走りながら渡る必要あると思うか?」 平井「あるんじゃないですかね!?わかりません!」 正史「平井。正直に答えろ………お前迷ったろ?」 平井「迷ったっぽいですね!何でだろ?」 正史「止まれえぇぇぇー!!今すぐ止まれえぇぇぇー!!」 平井「えー?道路走行中による急なブレーキは後続車に迷惑がかかるんですよ?    駄目ですよー。ちゃんとルームミラーで後方を確認して、左ウインカーを出して、バックミラーでまた後方確認してから左に寄せn」 正史「今この森林の中後続車がいるか!?何でそんな無駄に律儀に慎重に停車すんだよ!いいからさっさと止・ま・れ!!」 平井「はぁーい^∀^」 亮一「…ずっと父さん達のやり取り黙って聞いてるんだけど…なんなんだろうこの…漫才感は。    と、取り敢えず スマホのゴーグルマップで現在地を調べるね?」 正史「ああ ありがとう亮一。ったく…お前が運転するからてっきり事前に目的地を調べているんだなと思ってたのに…。」 平井「ちゃんと調べましたよ!この紙地図で!そしたらこの場所に着いたんですよ!」 正史「お前を信じた俺がバカだったよ!!    何回も学習した筈なのにな!コイツが極度のドジ野郎だって事を!」 平井「でも、そこが萌・え・ポ・イ・ン・ト♪なんですよね?」 正史「男が自分からそうゆう発言をするんじゃねぇよ気色悪い!」 亮一「あれ…地図が表示されない。」 正史「チッ…圏外か。どんだけ深く進んだんだよ。おい平井、一旦事務所に戻るぞ。」 亮一「え、来た道覚えてるの?」 正史「一応な。平井!早く車の向き変え て……」 平井「う~ん……」 亮一「さっき渡った橋が…」 平井「落ちちゃったw」 正史「……~ッ!!」 平井「で、どうやって?wどうやって事務所に戻れと言うんです?www」 正史「どの面下げて煽っとんじゃお前ぇー!!」 亮一「父さん落ち着いて!平井さんの胸ぐらを強く掴んで揺さぶらないであげて!!」 正史「そもそも何であんな吊り橋をわざわざ車で渡るような事したんじゃ貴様はあぁぁぁ!!」 平井「えっへへへぇ~w一度やってみたかったんですよねw千尋のお父さんがトンネルに着く途中である、車で橋を渡るシーンw」 正史「んなシーンねぇーよ!!あるならバイオハザード4の冒頭だ!!」 平井「アリエンナー!!www」 亮一「この状況下でも笑える平井さんのメンタルが凄い……ん?    あ…父さん!平井さん!」 正史「あ゛!?」 平井「へぇ?」 亮一「あそこに見える建物って…屋敷じゃない?」 平井「何でこんな森の奥深くに洋館があるんでしょう?」 正史「普通の家の5倍の広さと大きさはあるな。こんだけ大きければ町からでも見える筈なんだが…」 亮一「と、とにかく行ってみよう!もしかしたら誰か住んでて、この森に詳しいかもしれな…あっ 助けてくれるかも!」 正史「うーむ……本来なら怪しすぎるから近寄らないほうが最善なのだが…ハァ 状況が状況だ。仕方ない」 平井「凄く立派なお屋敷ですねぇーw何だかワクワクしちゃいますねっ!」 正史「こんな状況下に置いても尚楽しんでるお前の心理状態が理解出来ん…。」 亮一M「こうして、森の中で迷った僕たちは導かれるように洋館の方へ向かって行きました。     …今思えば、あれが恐怖の始まりだったのかな……いや。既にもう、僕が父さんの事務所へ向かっていた時から、始まっていたんだ。」
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