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……ていっ!
手を伸ばしてうさぎ型の大福もち、
もとい、大福然としたうさぎ型生物を掴み取った。
ふよん、と絶妙の弾力が伝わる。
餅と求肥の中間をいく触感は実に心地良い。
が、直後。
「冷たあぁっ!」
あたしは絶叫してゆきうさぎを放り出した。
まさに雪を鷲掴みにする冷たさ。
それでいて、指だけが逆にじんじんと熱い。
まさか指先から冷気を食べられた?
扉にかじりついていたゆきうさぎは、もちもちぷるりと震えてからいそいそとくぼみに戻る。
赤い瞳をきゅんと細めて、
そこにいられるだけでも幸せそうだ。
指の熱と絶叫の名残が消え去ると、
冷蔵庫がブーンと静かに音を立てた。
……何だろう。恥ずかしい。
静まり返った台所でちょっと赤面する。
誰もいないとはいえ──むしろ誰もいないのに叫んだことが、何かもの悲しい。
指をふーふーしても独りだ。
ダイニングの時計の秒針まで聞こえてきた。
早く何とかしたい。
でも思えば、
あたしは夏のゆきうさぎへの対処法を知らない。
失敗からは学ぼう。スマホを取り出すと、
“夏のゆきうさぎ 対処法” で検索する。
『ゆきうさぎの駆除には熱が一番です。
熱湯をかければそれこそ本物の雪のようにじゅわっと溶けて跡形もなくなり……』
鬼か。
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