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誘うように振ってやれば、
ゆきうさぎはくぼみの中でもちもちと体勢を変え──飛びついた。よし!
と、思ったのも束の間で。
次の瞬間、あたしは驚愕に目を見開いていた。
ドライアイスの塊が、
みるみるうちに消えていくのだ。
早送り映像でも見ているように。
ゆきうさぎはうっとりと瞳を細めて、
袋越しに頬ずりしている。
それだけにもかかわらず、
ドライアイスは減っていく。
素手で掴んだ時といい、
一体どこから食べているんだ?
今更の疑問に占領されて、頭が一瞬真っ白になる。
だめだ。考えるのは後。
今はアイスを優先しなければ。
とにかくもゆきうさぎを片手にぶら下げ、
あたしはもう片方の手でエコバッグからスイカのパッケージを探り出す。
その瞬間、ゆきうさぎが再び動きを変えた。
苺の瞳が光るような鋭さであたしのアイスに向けられる。
ドライアイスはといえば、
もう小石ほどにまで溶けていた。
まずい。そういえば、
アイスだって冷気を出すのだ。
ポリ袋はとうとうほぼ空になる。
不安定極まりない足場の中、
ゆきうさぎがもちもちとまた体勢を変え始める。
あたしのアイスをデザートにしようとは、この時ばかりはまるっこいフォルムが小憎らしかった。
目当ては冷気だけでしょ。
だったらアイスは贅沢だ。
冷たいものなら他にもある。
飛びかかる前兆を見せるゆきうさぎを後目に、
あたしも動く。
距離にして数歩。
手を伸ばせば目当ての場所に指が届く。
よし、あたしがここを開ける方が早い。
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