ゆきうさぎが来た日

5/6
前へ
/6ページ
次へ
誘うように振ってやれば、 ゆきうさぎはくぼみの中でもちもちと体勢を変え──飛びついた。よし! と、思ったのも束の間で。 次の瞬間、あたしは驚愕に目を見開いていた。 ドライアイスの塊が、 みるみるうちに消えていくのだ。 早送り映像でも見ているように。 ゆきうさぎはうっとりと瞳を細めて、 袋越しに頬ずりしている。 それだけにもかかわらず、 ドライアイスは減っていく。 素手で掴んだ時といい、 一体どこから食べているんだ?  今更の疑問に占領されて、頭が一瞬真っ白になる。 だめだ。考えるのは後。 今はアイスを優先しなければ。 とにかくもゆきうさぎを片手にぶら下げ、 あたしはもう片方の手でエコバッグからスイカのパッケージを探り出す。 その瞬間、ゆきうさぎが再び動きを変えた。 苺の瞳が光るような鋭さであたしのアイスに向けられる。 ドライアイスはといえば、 もう小石ほどにまで溶けていた。 まずい。そういえば、 アイスだって冷気を出すのだ。 ポリ袋はとうとうほぼ空になる。 不安定極まりない足場の中、 ゆきうさぎがもちもちとまた体勢を変え始める。 あたしのアイスをデザートにしようとは、この時ばかりはまるっこいフォルムが小憎らしかった。 目当ては冷気だけでしょ。 だったらアイスは贅沢だ。 冷たいものなら他にもある。 飛びかかる前兆を見せるゆきうさぎを後目(しりめ)に、 あたしも動く。 距離にして数歩。 手を伸ばせば目当ての場所に指が届く。 よし、あたしがここを開ける方が早い。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加