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 島暮らしのいやなところは島を出るにも帰るにもフェリーに乗らなきゃ行けないところだ。街の大きな病院に入院している母親の見舞いに行くにも必ずフェリーに乗らないといけない。  フェリーのいやなところは待合室で長いこと待たされることと乗船券を買わないと乗せてくれないところだ。島に向かうフェリーは一時間に一便しか出ないし、颯太(そうた)の財布にはジュースを一本買えるだけのお金しか入っていない。 「明日の夜が夏祭りなのになんで明日の朝、引っ越しなんだよ! こっちは去年から蓮と大地と約束してたんだぞ! それなのに急に引っ越しなんて……俺は行かないからな! 父ちゃんと母ちゃんだけで東京にでもどこにでも行っちまえよ!」  そう叫んで母親の病室を飛び出したのに父親が追いついて来るのを待合室で待っていないといけないのだ。 「颯太ももう小学五年生なんだ。わがままを言って母さんを困らせるなよ」  追い付いてきた父親が差し出した乗船券には〝小人〟と書かれていた。  さっさと帰れないところも、自分一人で帰れないところも、全部にむしゃくしゃして颯太は父親の手から乱暴に乗船券を奪い取った。
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