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夏穂の母親は島の外から嫁いできた人だった。
――良い人だったけど島の雰囲気に馴染めなかったのね。
母親たちが額を突き合わせてしていた話が小学校にあがる直前の夏穂を置いて島を出て行った夏穂の母親の話だと気が付いたのはずいぶんとあとになってからだ。
今となってははっきりと顔を思い出すことはできない。でも、日傘を差し、夏穂とお揃いの白いワンピースを着て海沿いを歩く夏穂の母親を幼心にきれいだと思ったことは覚えている。
この島では目立つ日焼けしていない真っ白な肌をきれいだと思ったことは覚えている。
そういえば、あの頃は夏穂も真っ白な肌をしていた。すっかり日焼けしてしまった今でも他の島の子たちと比べると白いけど、昔はもっと白い肌をしていた。
そういえば、あの頃の夏穂はよく笑っていた。今みたいに澄ました顔なんてしてなくて、コロコロと表情が変わった。颯太が夏穂の元へと駆け寄ると二ヒッと歯を見せて笑いかけてくれた。
颯太が大好きだった幼なじみの笑顔。
その笑顔は夏穂の母親が夏穂を置いて島を出て行った日から一つ、二つと消えて行った。
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