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「明日の朝には颯太もこの島を出ていっちゃうんだね」  颯太〝も〟と言った夏穂が誰の顔を思い浮かべているのか気が付いて、颯太は夏穂から目をそらして海を見つめた。 「そうだよ、夜にやる夏祭りには行けない。水あめも持って行ってやれない。だから……」  だから蓮や大地、島の誰かに水あめを持って行ってくれるよう頼んでおいてやる。  そう言おうとして颯太は一瞬、ためらった。自分以外の誰かから水あめを受け取る夏穂を想像したら胸がチリチリと痺れるように痛んだ。  それでも夏祭りでの夏穂の唯一の楽しみがなくなってしまうよりはずっといい。そう思って颯太は口を開こうとした。  でも――。 「なら、颯太が島の外に連れて行って」  颯太が口を開くよりも先に夏穂が言った。 「島の外にって……夏穂をか?」 「ううん、私のわがままを」 「わがままを?」  きょとんとする颯太の左胸を指さして夏穂は微笑んだ。 「夏祭りをまわりたいって……今、私が言ったわがままは島のみんなにはないしょ。明日の朝、この島を出て行く颯太の胸にしまって、誰にも話さないで、颯太が島の外に連れてって」  夏穂のわがままを颯太の胸にしまって島の外に連れて行く。  それだけのことなら子供の颯太でもできる。でも同時に〝それだけ〟しかできなことが悔しくて颯太はにらむように夏穂を見つめた。 「夏穂、部屋で待ってろ」  短くそれだけ言って夏穂に背中を向けると颯太は神社の裏手にあるどん詰まりを飛び出すと島の細くて急な坂を駆け下りた。
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