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夏穂が初めて舞を舞った小学一年生の夏祭り。
夏に着るには暑そうな巫女装束を着て、重そうな飾りを頭に付けて、日焼けしていない白い肌を不自然なほどにおしろいで白く塗って、真っ赤な口紅を付けた夏穂に颯太は声をかけた。
学校帰りに遊びに行こうと誘うときと同じように、前の年の夏祭りと同じように――。
「夏穂、水あめ食べに行こう!」
そう声をかけた。
颯太の言葉に夏穂はパッと顔をあげて笑顔になった。だけど、まわりの大人たちに何か言われて、重たい髪飾りに頭を押さえこまれたかのようにうつむいて、それきり。
夏穂の笑顔は消えてしまった。
あとから思えばあの年の夏祭りは夏穂の母親が島を出て行って初めての夏祭りだった。島を出て行った母親の代わりに夏穂が初めて舞った年だった。
当時の颯太に夏穂や夏穂を取り囲む大人たちの事情なんてわかるわけもなく。ただ、幼なじみがうつむくのを見ていられなくて、大好きな女の子の大好きな笑顔が見たくて、夏祭りが終わるのを待って夏穂の部屋に水あめを持っていって――それが毎年の決まりになったのだ。
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