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味わって食べているのだろう。夏穂はミルクせんべいに挟まった水あめをリスみたいにちょっとずつ、ちょっとずつ食べ進めていた。
それでも、あと二口分しか残っていない。
颯太も夏穂もなんとなくわかっていた。水あめを食べ終えたら帰らないといけない。じゃあ、と言って別れなければならない。
「あとは……」
サク……と、音がした。次の一口で食べ終わってしまう。
「お気に入りの白いワンピースを着たい。お母さんの日傘を差したい」
「着ればいいし差せばいいだろ。……似合うんだから」
気恥ずかしくてぶっきらぼうな口調になってしまったけど本心だ。
夏穂の人形みたいに整った顔立ちや白い肌、さらさらの黒い髪にはいつも着ているTシャツやジーパンよりも、巫女装束よりも、白いワンピースが一番似合っている。
そっぽを向く颯太を見つめて夏穂は嬉しそうに目を細めた。
「ありがと。……でも、島で着ると目立つしお父さんも嫌がるから」
そう言って最後の一口をほお張った。
これが最後だ。
今日、ここで聞いたわがままと言うにはあまりにも些細なわがままは颯太の胸にしまって、島の誰にも話さず、颯太といっしょに明日の朝、島を出て行く。
次が、颯太が連れて行ける最後のわがままだ。
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