タヌキと爆竹

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 玄関を入ってすぐの左手にある事務室の扉を開け、テレビの前に陣取った椅子の背もたれの上から覗く白いひよこのような綿毛頭を確認すると、すたすたと近づき、名刺を正面に突きつけた。 「館長、こがな人が来たがぁどがするがぁ」 「どがしたがぁ」  うろたえる山口とは裏腹に、見山館長はのんびりと首を捻って窓の外に立つ男と名刺を見比べた。  しばらく黒目勝ちの小さな目をしばたたかせ「あ~あ~」と声を上げた。 「先週、山降りたついでに市役所に寄ったら観光課の竹原課長に紹介されたけん、うちの公民館にも顔出してごせって言うたような気がするがぁ。まさか、ホントに来るとは思わんかったがぁ」 「また、その場限りのつまらんことを。とにかく中に入れますけん、ええが」  少々面倒な気もしたが、こんな田舎で顔見知り以外の人間に会うこともなく、しかも観光プロデューサーなんて想像も付かない、外人というよりは宇宙人に近い存在に興味をそそられ、山口は香芝を中へ招き入れた。
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