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「それから渓さんのこと、でしたね。当主となって隠すこともなくなった力を存分に発揮し、周りの人々の相談にのって走り回っていたものです。人の手には負えないモノを鎮めることも得意でした」
「そう、そのせいで苦労してるんだよ。心置き場ってさー、人に言えないモノだらけなんだから。咲ばあちゃんは修行あるのみだって根性論ばっかりでさ。ばあちゃんはもうオバケの類だからそれでいいけど、繊細な私には割に合わないよ」
瑚珠は足をバタバタさせて不満をぶちまけた。
昂は微笑んだ。
「山田家の男性は人が持つ力を超えることができます。ただし、手足は動かなくなり見ることも聞くこともかなわなくなります。場合によっては味も匂いもわからなくなるけども、安心してください。頭の中はくっきりしていますし内臓はそれほど弱りませんから長く生きられます。死後も成仏はできなさそうですが、僕の場合はこの世とあの世の境目にうまいこと引っかかっているようですよ」
さすがに黙り込んだ登を見ながら、瑚珠は少し震えた。
「そこで明るく笑っていられる昂さんがどうかしてるよ」
「それはどうでもいいんですが、瑚珠さん。咲さんは自分が持つ力は男性の家族の寿命や力を受け継いだものと考えているようですが、僕の解釈は違います。世の理を超えているのは山田家の男性でなく女性が持つ力の方でしょう。モノや人の心を探るだけでなく、攻め、防ぎ、浄化する。それらを全部行っても男性に起こるような肉体の衰えは見られません。瑚珠さん、咲さんの言うように修行あるのみですよ」
「え、やだ!」
反射的に修行を拒絶した瑚珠を、昂は嬉しそうに見た。
「やるだけやってここまでだって思ったら呼べばいいんですよ。助けてくださいます、きっと渓さんと稜さんが」
軽く手を振り、昂は夜の闇に溶けて消えた。
「昂さんってナニモノなのかな」
脱力しかけた瑚珠がぽつりとつぶやく。
「遠縁って言ってたけど、あれはきっと山田家のラスボスだな。咲ばあちゃんと同じレベルかもしれん」
ああいうのが一番怖いと登は思った。
昂が咲の叔父だとわかったのは、ずっと後のことだった。
【完】
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